最近耳にするようになった「フェムテック」という言葉。これは女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決できる商品(製品)やサービスのことを表す、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語だ。
この言葉ができたのは2012年。ドイツの月経管理アプリ「Clue」を開発したデンマーク人が作ったとされている。
2021年3月31日、世界各国の男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数ランキング」が、世界経済フォーラム(WEF)から発表された。日本は156カ国中120位と、前回(121位)同様、先進国の中で最低水準。このニュースを見て、ため息をついた女性は少なくないはず。森元首相の女性蔑視発言も記憶に新しい。
しかしそんな日本でも、確実に「フェムテック」は根付き、広がり始めている。日本のフェムテックを前後編で紹介していきたい。
日本のフェムテックの先駆け「ルナルナ」
2019年9月、iPhone に標準搭載されているヘルスケアApp、またはApple Watchの周期記録Appでも、月経周期を記録できるようになった(iOS 13およびwatchOS 6以降から)。
毎月の月経開始日や日数を記録でき、次の月経を予想して知らせたり、妊娠可能期間を通知することもできる。
iPhoneユーザーは現在世界で9億人以上といわれているが、そのiPhoneが月経管理機能を標準搭載したということで、「今やスマートフォンで月経を管理することは、世界中の女性のスタンダード」といえそうだ。
ちなみにフェムテックという言葉を生んだドイツの「ジェンダー・ギャップ指数ランキング」は、11位だ。
日本はどうだろう。驚くべきことに、2000年、世の中がまだガラケー主流の時代に、日本にはすでに携帯電話向け月経管理サービスが存在していた。
今や、女性なら知らない人はいないほど普及しているアプリ「ルナルナ」の前身「ルーナ」だ。
サービスを提供しているのは、一般向けの「music.jp」や自治体向けの「母子モ」など、モバイルコンテンツやITサービスを提供するエムティーアイ。当時は共働き夫婦が増加し、女性の活躍の場が広がり始めた時期だった。女性たちの多くは、普段持ち歩いている手帳や、自宅のカレンダーなどに月経の記録をつけ、次回の月経を自分で予測していた。
そんな中、「ガラケーの中に、次回の生理日を計算して教えてくれるコンテンツがあったら便利なんじゃないか?」と考えた男性からの提案を受け、アイデアの実現に動き出した。
「ルナルナ」リリースに立ちはだかるタブーの壁
「コンテンツ自体の開発よりも、広告を打ち、普及させることに大変苦労しました。市場調査を行った上で、短期的に広告を打ち、一気に『生理管理サービスと言えばルナルナ』というところまで認知を高める戦略立てましたが、『生理』というワードを公共の電波に乗せていいものか?というところから議論が進まず、なかなか審査が通りませんでした」と話すのは、エムティーアイの那須理紗さん(ヘルスケア事業本部 ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長)
それもそのはず。女性特有の健康問題、とりわけ月経については、古今東西を問わず、ほとんど全ての国や民族に、因習、迷信、タブーがあったといっても大げさではないからだ。
人類は1万年以上も前から、月経を神聖なものとする一方で、畏怖すべき対象で不可解なものとして扱っていた。月経血が毒とされ、触れることさえ忌避する社会や、月経中の女性を隔離し、目にしただけで災いが降りかかると信じて恐れ、それを言葉にすることさえままならない時代もあった。中世のヨーロッパで行われていた魔女狩りが、月経について科学的・医学的な研究が遅れた背景ともいわれている。
欧米を中心に、月経にまつわるさまざまな現象についての研究が進められ、有史以来、伝承されてきた女性や月経に対する俗説や迷信、それらがまとう神秘性・魔力性が払拭され始めたのは、20世紀半ばになってからのことだった。
インターネットの誕生と普及も、これまでタブー視されてきた女性特有の健康問題を解決する追い風となった。アドテク(広告×テクノロジー)、フィンテック(金融×テクノロジー)、アグリテック(農業×テクノロジー)など、ITはさまざまな分野の社会的課題を解決に導く有効なアイテムとなり、フェムテック市場は、2025年には5兆円規模への成長が期待されている。
とはいえ、長い歴史の中で培われてきた人々の意識は、そうやすやすと変えられるものではなく、先進国の間でも、経済的・政治的分野でのジェンダーギャップは根深い。だが、「女性の声がくみ取られやすい社会へ変革している」ということを感じている人は確実に増えている。
「ルナルナ」は、まさに日本のフェムテックの先駆けだった。
同社は、『月経』を扱う前例のないサービスだからこそ、分かりやすくユーザーに伝えるために、広告にはダイレクトな言葉を選択したが、テレビコマーシャルの審査員からは、「性的だ」「直接的すぎる」と指摘され、ぼかした表現に修正せざるを得なかった。
社会を巻き込み進化していく「ルナルナ」
「当初は、公式キャリアメニューとしての展開を考えていましたが、各キャリア全てに承認をいただくまでにもとても時間がかかりました。やはり課題は『サービスとして、生理という性的でデリケートなものを扱っていいのか?』というところ。常に『前例がない』と言われ、キャリアによっては慎重に議論されました」(那須さん)
最初に承認が降りたのはKDDI。au端末向けのサービス「ルーナ」の名称で2000年に配信スタート。その6年後の2006年には「ルナルナ」としてソフトバンクで承認され、翌年の2007年にドコモで承認が降りた。
2010年3月には20代から30代の女性500人に、「生理に関する実態調査」を行い、「生理前の心と身体の変化」について聞いたところ、そのうち約9割の人が感じると答え、約3割は「強く感じる」と答えた。具体的には、生理前になると「イライラする」という人が約7割。「落ち込みやすくなる」という人は約5割だった。さらに興味深いことに、「夫(彼)にも生理周期を知ってほしい」と答えた女性が約7割。「心や身体の変化を気遣ってほしい」という答えが多く上がった。
スマートフォンが普及してくると、2010年6月にスマートフォン向けアプリ「ルナルナ」をリリース。
2020年10月に同社が20代〜40代の男性600人に調査したところ、「彼女・妻など特定のパートナーの女性特有の体調について知りたい」と答えた人は約9割に上った。こうした結果を踏まえ、ルナルナの登録データをパートナーも閲覧できるサービス「ルナルナ〜彼女の医学〜」がスタートした。
ルナルナの会員数は、2011年には200万人を突破した。
後編に続く。
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