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テクノロジーの力で“選挙報道“を変えよう。投票に役立つ「見せるニュース」の現在地 - Business Insider Japan

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報道番組などを映すディスプレイが並ぶオフィスで取材に応じたJX通信社の米重克洋氏。

撮影:今村拓馬

「選挙報道は変わらざるを得ない状況になっています。今回の衆院選はメディアにとって大きな過渡期の中での選挙になる」
「必要なのは、機械化できることを人間に続けさせないことです」

TwitterなどのSNSや選挙の情勢調査のデータなどを駆使し、これまでになかった新しい選挙報道を続ける企業がある。「記者のいない通信社」として知られるJX通信社だ。

テレビ局や新聞社など既存メディアと連携し、全国の選挙で特設サイトを構築。型にはまりがちだった選挙のニュースに、データとインフォグラフィック(情報を視覚的に表現すること)を駆使することで新しい「見せ方」を取り入れて注目されてきた。

10月19日公示の衆院選(31日投開票)でも「新しい仕掛け」を用意していると米重克洋社長(33)は語る。

令和初の政権選択選挙で選挙ニュースはどう変わっていくのか?米重氏に話を聞いた。

JX通信社:2008年創業。社員の半数近くをエンジニアがしめ、記者はいない。SNSをはじめとした、ビックデータ上の情報をAIが瞬時に分析することで、災害・事件事故の発生を察知するサービス「FASTALERT(ファストアラート)」を開発。NHK、民放の全在京キー局、全国紙など数多くの報道機関が採用している。ニュースアプリ「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」も運用。500万ダウンロードを突破した。

メディア業界に、テクノロジーで「手当て」

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米重氏は「情勢調査などの選挙報道は、市民が政治家とコミュニケーションする手段でもある」と話す。

撮影:今村拓馬

——4年ぶりの解散総選挙が公示されました。米重さんから見て、今の選挙報道にはどんな課題があると思いますか。

この十数年で、私たちの情報環境は大きく変わりました。昔と違って、今はマスコミだけが情報発信の手段を握っているわけではありません。一般の人もSNSで情報をどんどん発信する時代になりました。

一方でデマや誤情報、フェイク(偽)ニュースが問題になっています。選挙で有権者が投票先を決めるには「正しい情報」が必要です。

これまでは「正しい情報」を伝える役割は、いわゆる大手メディアが担ってきましたが、メディアを取り巻くビジネスは厳しさを増しています。

特に選挙報道には人件費や調査費用などで多額のお金がかかります。メディアがコストをかけられなくなってきました。

例えば、メディアは選挙前や選挙期間中に世論調査を実施し、有権者が『何に関心を持っているか』を調べます。ただ、近年では調査規模を縮小したり、回数を減らしたりしています。

そうなると有権者は投票行動をとるにあたって情報に触れる機会が少なくなってしまう。メディアが抱えるこうした課題に対して、我々はテクノロジーで『手当て』をしていくことが重要だと思っています。

JX通信社では、これまでは人手に頼っていた情勢調査を完全に機械化。電話やネットを用いた調査でコストを大幅に減らしています。

報道の見せ方についても、これまでのメディアでは同じフォーマットに基づいたニュースが続いてきました。

例えば「A候補には自民党支持層の6割ぐらいが投票しているが、B候補は〇割だった」などです。

でも今の時代、人によって関心を寄せる政策課題は違います。みんなの関心がバラバラになった時代には、性別、年齢層、地域での違いなど、さらに細かく見えるようにすることが効果的だと思います。

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信濃毎日新聞とJX通信が作成したサイト。長野県内の選挙区別の情勢などを図示している。

出典:信濃毎日新聞の衆院選特設ページより編集部キャプチャ

例えば同じ「教育問題」と一口で言っても、都市部と地方では関心を持つ年代層は違います。『この地域の人たちが抱えている問題課題は何か』を丁寧に可視化しなくてはなりません。

それが一人ひとりの有権者の投票行動を支援することになるし、有権者が政治に対して「私たちはこういう課題に関心がある」とアピールできるようにもなります。

「多様性か、伝統か」質問に答えて判定

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日本テレビ・zero選挙のサイト。選挙区を選ぶと、それぞれの候補者のアンケート結果が分かる。画面は東京都1区のもの。

出典:日本テレビzero選挙のHPを編集部キャプチャ

——今回の衆院選では、どんなことに取り組みますか。

テレビ局、新聞社など全国の報道各社と連携して様々な選挙報道に取り組みます。

例えば、日本テレビとは、選挙特番「zero選挙」と協力して自分の政治意識を可視化できる特設サイトを立ち上げました。

このサイトでは11個の質問に答えると自分の政治意識や考え方を知ることができます。

「新型コロナの感染拡大に歯止めがかからない場合には、ロックダウン(罰則を伴う外出禁止)のような私権制限が必要だとする意見について、あなたは賛成ですか、反対ですか」などコロナ対策から「選択的夫婦別姓にあなたは賛成ですか、反対ですか」「同性婚を法律に明記することについて、あなたは賛成ですか、反対ですか」など、多様性に関する質問も設けました。

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記者がアンケートに答えてみた結果。同年代との比較や、考え方の候補者も表示できる。

出典:日本テレビzero選挙のHPを編集部キャプチャ

回答をもとに「自由か、制限か」「多様性か、伝統か」といった軸で分類したときに、自分の立場はどのあたりにあるのかが分かるしくみです。

全選挙区の候補者にも同じ質問でアンケートをしたので、みなさんの地元の候補者も図の中で示される。政党やマニフェストに縛られずに、どの候補者が個人として、自分と考え方が近いかも分かります。

一つの小選挙区から一人を選ぶ小選挙区制では、候補者がどんな人か分からないと、有権者は政党などのラベルで選ばざるをえなくなってしまう。

でも、このサイトでそれぞれの候補者の立場を示すことで、みなさんが投票先を判断するお役に立てると思います。

若い世代にもアピール

——若い世代の投票率の低さが課題となっています。若い世代が選挙に関心を持つためには、どんなことが必要でしょうか。

年齢が若くなればなるほど、明らかに政治への関心が低くなることが、意識調査でも明確に出ます。

おそらく「就職」や「結婚」などのライフイベントなどをきっかけに税金の使われ方など政治の在り方に関心を持つようになることが影響していると思います。

ただメディアとしては、人生のより早い段階で人々が政治に関心を持てる材料を提供していく必要があると思います。

若い世代でも、自分のことには興味があります。

選挙が近づくと「政策を勉強しなきゃいけない」「新聞を読まないといけない」と身構える人もいると思いますが、実際は「コロナ対応をどう思うか」とか「選択的夫婦別姓や同性婚をどう思うか」とか、私たちの生き方や暮らしに密着している。それが政治です。

自分の考えと、他の人の意見はどう違うのか。それを考えるニュースを提供できれば、若者にも興味を持ってもらえると思います。

大阪都構想で感じたデータの可能性

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ABCテレビとJX通信が製作したサイト。Twitter投稿を分析し、多かったキーワードを大きな文字で表示した。

出典:ABCテレビ「大阪都構想」特設ページを編集部キャプチャ

——2020年10月に住民投票が実施された「大阪都構想」に関する報道では、JX通信社とABCテレビ(朝日放送)が製作した特設サイトが話題になりました。

大阪都構想はローカルな話題で、住民投票の有権者は約220万人。

「大阪の人しか関心を持たないのでは」とも思っていたのですが、ふたを開けてみると投開票までの約1カ月間で100万PVを記録しました。

特設サイトでは、毎週の情勢調査のトレンドや詳しい内訳のデータをビジュアルで見せたり、Twitterで多くつぶやかれた言葉を可視化したりしました。

情勢調査がメインのシンプルなページだったのに、結果的にそのデータが共通言語になり、そこから議論が生まれるプラットフォームになった。

「データがプラットフォームになる」という可能性を感じる、エポックメイキングな出来事でした。

この盛り上がりを他の報道機関も見てくれて、私たちと連携してくださるメディアも広がりました。

「機械にできることを、人間にさせない」

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「優れた記事を書くという部分については、『そこを取りにいかないこと』が大事だと思っています」

撮影:今村拓馬

——選挙に限らずメディアはDXやビジネスの急激な変化を迫られています。変わりゆくメディア産業の中で、JX通信社がこれから目指していく役割とは。

JX通信社は「記者のいない通信社」です。

なので「とにかく、いい記事を書く」という方向性ではなく、「データとテクノロジーを使って、どう情報を提供できるか」「データジャーナリズムをどうやって実践できるか」。そこにこだわりたいと思っています。

一方で、従来のメディアが強みである調査報道などは、おそらく永久に機械化はできません。これは人間にしかできない領域です。

人間にしかできないところは、これまで以上に人間にお任せする。それができるように私たちが報道機関と協働していきたいと考えています。

我々がやるべきことは、「機械にできることを、人間に続けさせないこと」です。

報道産業の課題は労働集約型で、何から何まで人間がやっている、またはやろうとしてしまうことです。そして、それに見合う収益を稼ぐ術が失われていることです。

これはグローバルでも一緒です。世界のメディアが抱える課題を解決するためにも、我々は「国際総合通信社」を目指しています。

通信社は報道機関にとっての互助組織です。例えば共同通信社は、地方紙がお金を出し合って運営し、全国のニュースを取材し、取材網を構築しています。

「通信社」である我々も同じです。「データとテクノロジーの活用」という業界の課題を先取りする役割を先頭に立って担いたいと思っています。

(聞き手:横山耕太郎・吉川慧、文:横山耕太郎、編集:吉川慧)

編集部より:一部誤植修正しました。2021年10月21日 11:10

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