真言宗の総本山として知られる高野山。かつては、参拝客のための宿場街として栄えた高野口という地域で、グッチ(GUCCI)やプラダ(PRADA)といった世界のハイブランドから求められる世界でも高品質の「エコファー」が生産されている。かつては毛織物の生産地として発展し、反物が荷台からこぼれ落ちるくらい満載になったトラックが走っていたというこの町に、かつてほどの活気はない。そんな中で1992年に創業した岡田織物は、90年代からずっと、地場の工場と協業しながらフェイクファーとも呼ばれるパイル地の織物を製造してきた。
「原料はアクリルが圧倒的に多いですが、ウールや綿を使うこともあります。染めることで縮むバルキー糸を混ぜて繊維をつくることで、短い産毛と長い差し毛が混じった本物の毛皮と同じ構造を再現できる。それが、うちの織物です」
岡田織物の代表・岡田次弘は、祖父の代から現在と同じものを和服に羽織るショール用につくってきたと言いながら、いま「エコファー」と呼ばれているものの成り立ちを教えてくれた。
68工程にも及ぶ丁寧なものづくり。
生地に毛皮の模様を印刷する工程。
アクリル製とはいえ、石油からそのまま織物ができるわけではない。パイルと呼ばれる繊維が何本も織り込まれた糸をほぐし、何度も磨き上げたのちに毛皮の模様をプリントし、再び磨くことで、毛皮に近い手触りのエコファーは生まれる。プリントも含めると、その工程は68にも分けられる。
「昭和の時代にはボアと呼ばれていた素材でした。平成になってヨーロッパを視察したとき、同じ素材をつくっている工場を訪れました。町全体がひとつの工場みたいなところで、自分たちの技術は足下にも及ばなかった。それに追いつけ追い越せというかたちで、素材メーカーの三菱ケミカルと共同で研究開発しながら、品質の向上に取り組んできました。最初は海外の展示会でウケるように色付きの織物を数百点も持っていきましたが、ラグジュアリーブランドには買ってもらえなかった。それが2010年くらいから、日本でやっているものをそのまま持っていくと、いきなり売れ出したんです」
「毛皮の再現」を超える。
磨く前後のエコファー。
転機が訪れたのは11年ごろ。ルイ・ヴィトン(LOUISVUITTON)のコレクションに採用されたのち、12年にはプラダからも発注を受け、バッグ用のエコファーを提供した。そこからエコファーという言葉が一気に広まった。岡田は、自社の素材が選ばれる理由は「トラブルのなさ」だと自信を見せる。
「製造量が増えてきて、弊社と販売先とメーカーの3社でエコファー専用の大きな工場をつくりました。そのとき生産工程を改めて見て気づいたのは、海外の流通では輸送時に生地が傷むケースが多発していること。それをなくすために全工程を検証し直したので、いま世界のどこに送っても、生地が傷んでいない自信があります」
さらに岡田は、商品になったエコファーを使う人のことを考えながら、生地の最終的な仕上げを調整しているという。
「毛皮と同じような気持ちのいい手触りにしようと思ったら、ポリッシャーと呼ばれる艶出しの工程を素材の限界までやればいい。ただ、それだと耐久性がどうしても低くなり、すぐにギシギシした手触りになってしまいます。だから、うちではあえて艶出しを8割にとどめています。昔は、できるだけたくさん商社に買ってもらえばそれでよかった。でもいまは、エンドユーザーの人にいいと思ってもらうまでが大事だと思っています」
エコファー独自の価値を想像せよ!
岡田織物の工場に並ぶエコファーの反物。
いまや多くのブランドが毛皮の代わりになる素材を求めて和歌山までやってくるというが、岡田は、単に毛皮の再現としてのエコファーを目指しているわけではないと強調する。毛皮の代替として使われることはあっても、エコファーは、あくまでエコファーなのだと。
「毛皮は、神様がつくったもの。ヨーロッパでは何百万円もする毛皮が、何代も受け継がれたりしています。人間が、そんな素晴らしいものをつくれるわけないんです。エコファーはもっと気楽に着られるもの。毎日着ていると汚れていき、それを洗ってくたっとなっていくのもよさなんです」
だからこそ、岡田は試行錯誤してそこに「新しい価値」を付け加えるのだ。たとえば、三菱ケミカルと共同開発した、静電気の帯電を抑えたり発熱する繊維は、決して毛皮にはまねできないことだ。さらに、ブランドとのコラボレーションを通して素材メーカーである自分たちが思いつかない価値に気づくことも多いという。たとえばプラダのバッグは、スポットライトが当たったときの反射の美しさが称賛を浴びた。その話を聞いた岡田は、さらなる素材の改善を行ったという。デザイナーがもつ素材への視線が、新しいステージへと導いてくれるのだ。
何が本当の“エコ”なのか。
岡田が有する特別な裁断機。
こうしてファッション業界のファーフリーの動きを追い風に成長してきた岡田だが、課題もある。動物由来の素材を使っていないという点では確かに「エシカル」だが、石油由来の素材を使用しているという意味では完全に「エコ」とは言えない。岡田も、エコファーの生産でCO2が発生していることは事実と認め、時流としてサステナビリティに配慮した素材が求められていることは認識しながらも、安易に再生素材を使うことが答えではないと語る。
「ちゃんと自分たちでかみ砕いて、理解してからでないとものはつくれません。たとえば再生PET素材で生地をつくっても中国には勝てません。日本で調達する原料費だけで中国製の生地の売価を超えてしまいますから。エコだからといって、倍の値段の生地をユーザーが納得するかどうかは疑問です」
ブームで終わらせてはいけない。
まるで本物のカラスのような毛並みのエコファー。
そんななかで岡田がいま取り組むのは、高野口という産地で培われてきた織物技術の継承。ものづくりの軸をつくり、次の世代に伝えることが一番大事だという。
「17年にグッチ(GUCCI)が毛皮の使用をやめるステートメントを出してから、エコファーに対する視線は大きく変わりました。それは確かに大きな転機でしたが、自分たちの商売自体が変わるわけではありません。もちろん問い合わせの量は増えましたが、自分たちの生地がTシャツやシャツのような必需品になったわけではない。逆にブームのサイクルは、どんどん短くなっています。ラグジュアリーファッションで重要なのは創造性。デザイナーたちのクリエイティブな発想をかたちにする手伝いができるように、できるだけ多くの人の声を聞きたい。その声に応えながら、信念をもって、つくりたいものをつくっていくべきだと思うんです」
Photos: Hirotsugu Horii Text: Shinya Yashiro Editors: Maya Nago, Sakura Karugane
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May 04, 2021 at 10:02AM
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