今から約1000年前に描かれた国宝「聖徳太子絵伝」。貴重な作品が今、最先端のデジタル技術を駆使した形で東京国立博物館にて展示されている。長い年月を経たことで肉眼ではなかなか細かな描写が確認しづらくなっている本作。どのようにその細部を復元したのか。その裏側を解説する。(東京国立博物館絵画・彫刻室長 沖松健次郎)
約1000年前に描かれた国宝を
デジタル技術で復元する
美術館や博物館で日本の古い美術品に接したとき、剥落や顔料の変色などで絵柄が見えづらい、何が表されているのか分かりづらい、作品の作られた背景やもととなるお話が分からないのでどんな内容なのかよく分からない、という感想を多くの方が持たれるのではないかと思う。
慣れた方なら単眼鏡を使ってじっくり細部を観察する、ということもあるし、分からないことを自分で調べて知識を広げていく、ということも楽しみの一つではあるのだが、多くの方はその場で分からなければ、ふーん、と言いながらなんとなく見て通り過ぎていくことであろう。
しかし、これは見る側にとってはもちろん、作品を展示する美術館や博物館にとっても実にもったいないことである。展示を見て頂く側としては、もし、誰でも自分の手元で細部を自由に拡大して観察できたら、どれだけその表現、技法の素晴らしさが伝わることだろうか。
あるいは、今は図柄がほとんど残ってないけれど、剥落する前はこんな絵が描かれていたのではないか、ということを解説とともに誰にでも分かりやすく示せれば、その魅力をもっと身近に感じてもらうことができるのではないか、ということを考えてしまう。
今回、そんな思いの一部を実現してくれるようなイベントが東京国立博物館内の法隆寺宝物館中2階特設会場で行われている。約1000年前に描かれた国宝の『聖徳太子絵伝』(以下、国宝本)という作品を対象にして、ARグラスを通してアニメーションで視覚的に内容をわかりやすく伝え、さらに5Gスマートフォンを用いて超高精細画像で拡大縮小をしながら解説を聞いて楽しむことができる。
もともとは2018年に文化財活用センターとNHKエデュケーショナルとで行った「8Kで文化財 国宝『聖徳太子絵伝』」の企画で制作した1面あたり18億画素の超高精細画像があり、その画像をうまく活用したコンテンツができないかとKDDIと共同で制作したコンテンツが今回の「5Gで文化財 国宝『聖徳太子絵伝』ARでたどる聖徳太子の生涯」である。
「聖徳太子絵伝」
復元の裏側とは?
聖徳太子絵伝は、遣隋使の派遣や、官位十二階、憲法十七条の制定などに力を尽くし、日本での仏教の興隆にも大きな影響を及ぼした人物として知られた聖徳太子の生涯を描いた作品。40件ほど現存しているが、そのなかで国宝本は世界遺産としても有名な法隆寺に伝来した。
五重塔や金堂など世界最古の木造建築物群で著名な西院伽藍の東側、西院伽藍より小規模な東院伽藍と呼ばれる区域にある絵殿という建物の内壁に嵌められていた。2面1組で約2メートル四方の大きな一画面をつくり、それが5組ある。建物の東・北・西の面にコの字形に配置されていた。
飛鳥から斑鳩、難波、さらには海を挟んで中国までに及ぶ壮大な景観を構成している。実際の地理と対応したその空間の前で太子の生涯が語られたようだが、まさにバーチャル空間に入り込んでの鑑賞である。ちなみに東院伽藍は、聖徳太子の生活した斑鳩宮の跡地に建てられた場所で、まさに聖徳太子信仰の中心といえる場所だ。
国宝本は、1069年に秦致貞(はたのちてい)という絵師によって描かれたことがわかっている。現存する聖徳太子絵伝の最古の作例でとても貴重なもの。明治11年(1878年)に法隆寺から皇室に献納された法隆寺献納宝物の一つとして、現在の国立博物館に引き継がれている。保存のため、博物館では年1回、1カ月しか展示されない。しかも、長い年月を経てさまざまな時代の修理が入っているため、画面がかなりいたんでいて細かい描写がよく見えない。
そこで今回のコンテンツでは、鑑賞者の方に絵伝の世界のイメージをもってもらいやすくするため、アニメーションを制作することになった。
それには復元が必要であるが、がちがちに学術的にやろうとすると、どの時点の復元をするのかも問題となり、なかなか難しい。そこで今回は、今見えている姿を復元する方向で、学術的な正確さをある程度担保しつつ、分かりやすさを重視した復元を行った。
では、実際に、どのように復元をしていったかご覧いただこう。
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October 11, 2020 at 03:20AM
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約1000年前の国宝「聖徳太子絵伝」、デジタル技術による再現の裏側 - ダイヤモンド・オンライン
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