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ベンチャーと大企業で手を組んだ理由―テクノロジーから探る「つながり」の温度感 | 境界線の越えかた | EL BORDE (エル・ボルデ) - デキるビジネスパーソンのためのWEBマガジン - 野村證券マーケット情報

ベンチャーと大企業で手を組んだ理由―テクノロジーから探る「つながり」の温度感のイメージ

なかなか帰省できない遠方の実家に、気軽に孫の写真や映像を届けられるサービス「まごチャンネル」。これに高齢者の見守り機能を加えた「まごチャンネル with SECOM」が、2019年12月にリリースされ、今年2月には「ダイバーシティTOKYO アプリアワード」(東京都主催)アプリ部門の最優秀賞を受賞した。

サービスを手掛ける株式会社チカクの梶原健司に、本サービスに込めた思いやエピソードをうかがいつつ、本稿で最終回を迎える連載「再考、家族のカタチ」を振り返ってもらった。

大企業とWIN-WINの関係を作る

「ダイバーシティTOKYO アプリアワード」アプリ部門の最優秀賞受賞、おめでとうございます。ユーザーの利便性の向上や、新たなビジネスチャンスの拡大につながるアプリケーションに対して贈られる賞とのことですが、受賞の感想をお聞かせください。

ありがとうございます。「チカク」は東京で生まれ、都のベンチャー支援プログラムを受けて育った会社なので、東京都が主催するアワードで賞をいただけたことはすごく光栄です。

小池 百合子都知事、梶原 健司の授賞式のイメージ

授賞式では、小池百合子都知事から「ユニコーン企業になって、グローバルにサービスを展開していってほしい」という言葉をいただきました。僕自身も自社のサービスを日本だけでなく、高齢化が進む他の国々にも展開したいと考えています。そういう意味では、とてもありがたい後押しが得られたと思っています。

「まごチャンネル with SECOM」は、「まごチャンネル」に高齢者の見守り機能を組み込んだサービスです。どういった経緯で誕生したのでしょうか?

「まごチャンネル」は、子ども世代がスマホアプリで送った写真や動画を、親世代がテレビで見ることができるというサービスです。親世代が孫の写真や動画を見始めると、送った側のスマホに「ご実家がまごチャンネルを見始めました」という通知が届く仕組みになっています。

通知画面のイメージ

この機能は本来、通知をきっかけとしたコミュニケーションの創出、「こんなに見てくれるなら、もっと送ってあげよう!」と子ども世代のモチベーションを上げたりすることなどを意図して搭載した機能でした。

でも、いざ搭載してみると「実家の見守りに使えてありがたいです」という予想外の言葉を数多くいただくようになった。どうやら、この通知が親の安否確認にも役立っているらしいんです。僕たちにも気づかないところに需要があった。

梶原 健司のイメージ

それで、「子どもが親の様子を毎日ゆるやかに把握できるサービスを付加できないだろうか」と考えていたら、セコムさんから共同事業のお話をいただいた、という流れですね。

以前からお付き合いがあったんですか?

僕らが都のベンチャー支援プログラムを受けていた時のメンター企業の一つがセコムさんでした。本格的にプロジェクトの話をいただいたのは、2018年の初めですね。

僕たちチカクが「まごチャンネル」に見守り機能を追加したいと考えていた一方で、セコムさんにはこれまでよりも敷居の低いサービスを提供したいという想いがあった。それがうまくハマったんです。

梶原 健司のイメージ

セコムさんは、ベンチャーと組んで何かされた経験がほとんどない会社だと伺っていますが、そうした中で「まごチャンネル」に注目し、お声がけいただけたのは、本当にありがたいです。

チカクは大企業から社員のレンタル移籍を受け入れるなど、自社に閉じない「つながり」を大切にした企業である印象を受けます。

そうですね。これまでにも関西電力、パナソニック、NTTコミュニケーションズからレンタル移籍を受け入れています。今はリコーさんから受け入れていて、これで4人目になります。

僕自身が大企業(アップル)出身ということもあって、ベンチャーと大企業のつながりの機会をうまく提供できるのではないかなと。ご一緒できることがあれば、どんどんつながっていきたいし、うまくWIN-WINの関係を作っていければなと思っています。

“監視”ではない、“ゆるやか”なつながり

具体的にどのような機能があるのか、教えていただけますか?

「まごチャンネル」の端末に温湿度、照度、振動などを感知するセンサーを接続し、そのセンサーで集められたデータが、子どもの側のスマホアプリで確認できるようになっています。

スマホアプリ画面のイメージ

使用していくうちに、機械が部屋の照度の変化や生活音の有無なども学習し、利用者の起床、就寝まで判断できるようになる。するとアプリには、「起きたようです」「寝たようです」という通知が届くわけです。

設計するにあたって、こだわったポイントはありますか?

各データをダイレクトに伝えるのではなく、ライフログ(日誌)のような形に変換していることですね。

このサービスは、介護が必要になるような方ではなく、「今は元気だけど、年齢的にちょっと心配」というような方を見守ることを想定して設計しています。なのでカメラで監視したり、音を録音したりといった過度な干渉は行いません。

そのかわり、たとえば(一緒に暮らしている)親の部屋の電気が消えたことで、「あ、もう寝たな」と自然にわかるような、ゆるやかに、そして自然に行動や存在が感じられるような設計にこだわりました

梶原 健司のイメージ

一方で、駆け付けサービスなどはありませんから、「この時間は起床しているはずなのに、様子がおかしいな」といった急な変化にそなえたい場合は、セコムさんが以前から提供されている、より本格的な見守りサービスに移行していただくのがよいかと思います。

「まごチャンネル」は、「遠方で暮らす親と、隣の家で暮らしているような感覚を作りたい」という発想から生まれたサービスでした。「まごチャンネル with SECOM」も、同じコンセプトで作られているのですね。

そうですね。元々のコンセプトを崩さずに、うまく進化できたのではないかと思っています。

年明けから一般販売がスタートされましたが、ユーザーの声は届いていますか?

「いままでの見守りサービスは親が『監視されているみたいだ』と嫌がって受け入れてくれなかったけれど、『これならいいよ』と言ってくれた」「頻繁に電話をするのはお互いに気を遣うけれど、「まごチャンネル」なら生活に支障をきたすことなく、ほどよい距離感で見守れる」など、おかげさまでご好評をいただいています。

人と人がつながるときには、きっとそれぞれの関係性に応じて、適切な温度感や距離感がある。セコムさんと組むことで、その「つながりの選択肢」を提供できた。やってよかったなと感じますね。

今後の展開についてもうかがえますか?

「まごチャンネル」の端末は、もともと高い拡張性を備えているので、いま以上に詳細なデータを取れるようにすれば、ご家族や自治体、医療機関と連携させるといったことも可能です。

梶原 健司のイメージ

シニア層は「得体が知れないから」と言って、デジタルのソリューションを敬遠しがちですが、そういった人たちにもスムーズにメリットを提供できるようにするのが僕らの役割。やり方はたくさんあると思うので、いろいろ試していきたいです。

縦の関係をいかに生み出すか

「まごチャンネル」が「スマホが使えない親」と、「スマホを当たり前に使う子ども」のコミュニケーションを円滑にするツールであるように、梶原さんは「世代」という縦の関係性をつなぐことを一つのミッションとされています。そこには特別な理由があるのでしょうか?

世の中にある「人とつながるツール」って、基本的に同じ世代をつなぐものなんですよね。たとえばSNS。40代の僕らがよく使うのはFacebookですが、より下の世代はツイッターが多いし、10代はTikTokのヘビーユーザーが多かったりします。

10代にとってはFacebookなんて化石みたいなものだろうし、40代は10代のようにTikTokでやり取りするとかできなかったりする(笑)。

梶原 健司のイメージ

そんなふうに世代によって価値観やリテラシーが違うので、別世代同士がわかりあおうとしても、実はITの世界ですら壁がありますよね。でも自分が年をとったときに、子供や孫の世代とうまくコミュニケーションがとれないのはとてもさみしいし、嫌だなと。

だから、たとえ世代や育った環境が違っていたとしても、ツールやテクノロジーをうまく利用して、お互いの存在を尊重しながら楽しく生きていける世の中にしていきたい。そんな思いが、「まごチャンネル」につながっているんです。

「ベンチャーと大企業のコラボ」という、今回の受賞につながる発想でもあるように感じます。

そうですね。縦の世代がつながることで、そこでもまた何か新しいものが生まれたりすると嬉しいですね。

本連載、「再考、家族のカタチ」では、家族という「つながり」についてさまざまな方と対談してきました。連載企画を終えてみて、強く心に残っていることはありますか?

「孫育て・ニッポン」の棒田明子さんが、今の親世代と子世代とでは育児の常識がまったく違っているし、常識の変わる速度が圧倒的に速くなっているとおっしゃっていたのが、とても印象的でしたね。「僕らはものすごい勢いで変化している時代を生きているんだよな」と再認識しました。そうした中で、いかに人と人をつないでいくか。

梶原 健司のイメージ

ゲストのみなさんは、変化の中で生まれた家族関係の課題や歪みを、それぞれの立場、アイデアで解決しようとされていました。CaSyの加茂さんスマートシッターの丸山さんはテクノロジーの力を使っていたし、石山アンジュさんは「拡張家族」というコミュニティの力を使っていた。

逆に、写真家の幡野広志さんは病気をきっかけに、家族のつながりを断つという選択をされていた。とても印象的でしたね。自分の意思で選択していくことの大切さ、そしてそれができる時代に生きていることを考えさせられました。

他にもさまざまな方とお話しさせていただきましたが、話を聞いているうちに、僕も家族間の課題を解消するために、もっと力を尽くしたいとあらためて感じましたね。

めまぐるしく変化しつづける時代にあって、私たちの「家族」というもののとらえ方は、今後も変化していきそうですね。

人類の誕生からつい100年ほど前までは、ほとんどの人間が血縁、もしくは住んでいる場所でしか他者とつながることができませんでした。

でも、テクノロジーが発達したいまは、生まれ育った土地を離れ、同じ興味や理想を持つ人間たちと出会い、それこそ地球の裏側に住む人と家族のような関係を結ぶことだってできる。そんなふうに、家族のあり方は現在進行形で変わっているし、その流れは今後さらに世界中で加速していくだろうと思います。

梶原 健司のイメージ

ただ、そんな流れの中に生きているからこそ、「自分にとっての家族って何なのか?」、あるいは「自分が大切にしたいものって、一体何なのか?」という問いに真摯に向き合っていくことを大事にしたいと思いますし、そういう問いに現代に生きる人はみんな向き合っているのではないかと思うんです。

これを機に、読者のみなさんにも「家族」や「つながり」について再考してもらえたら嬉しいですね。

本当にそう思います。10カ月間、本当にありがとうございました。

【連載】再考、家族のカタチ 最新記事
EL BORDEでは梶原氏のビジョンを受け、「再考、家族のカタチ」と称した連載企画をスタート。梶原氏をホストに、各回さまざまなゲストを迎えながら「家族のカタチ」にまつわる議論を展開していく。

まごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージまごチャンネル×EL BORDE presents 再考、家族のカタチのイメージ

梶原 健司(かじわら けんじ)
株式会社チカク共同創業者兼代表取締役。1976年、兵庫県・淡路島生まれ。1999年、新卒でアップルの日本法人に入社。以後12年にわたって、ビジネスプランニング、プロダクトマーケティング、ソフトウェア・インターネットサービス製品担当、新規事業立ち上げおよびiPodビジネスの責任者などを経て、2011年に独立。2014年、株式会社チカク創業。

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