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MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.5刊行に寄せて - MITテクノロジーレビュー

都市は人を魅了する。異なるバックグラウンドを持つ人々が世界中から集い、出会いが生まれる。人が集まることで、モノ、カネ、情報が集まり、それが新たな人々を呼び込む好循環を生む。都市には多種多様な仕事があり、高度な専門教育を受ける機会がある。充実した公共交通機関と道路網によって昼夜問わず自由に移動でき、求めるモノや情報をすぐに手に入れることができる。レストランに行けば世界中の料理が食べられるし、美術館では絶えず国内外の優れた作品を鑑賞できる。ホールやスタジアムに足を運べば、音楽やスポーツ観戦を楽しむこともできる。都市は、便利で刺激にあふれている。

一方で、都市は負の側面も持つ。急速かつ過剰な人口流入は道路渋滞や電車の大混雑を招き、住環境を劣悪化させる。成功者への富の集中は新たな経済格差を生み出し、希薄な人間関係はコミュニティの犯罪抑止機能を低下させる。ひとたび災害が起きれば都市機能は麻痺し、路上には帰宅難民があふれることになる。大量消費を是とする都市の生活スタイルは温室効果ガスの大量排出につながり、気候変動に大きな影響を与える。

本書の目的は、こうした都市の負の側面を解消し、より良い都市の未来を描くためのイノベーションのアイデアを提供することである。

都市の問題を解決しようとする人類の試みは、およそ5300年前、世界最古の都市の1つがメソポタミア地域で誕生した時から始まっている。たとえば、防犯だ。当時、気候変動によって移住を余儀なくされた「よそ者」たちが集落に流入したことで、食糧や財産を無断で持ち出す者が現れた。そこで発明されたのが、特定の人にしか開けられない「鍵付きの倉庫」だったという。やがて居住区への人口集積が進み、生活排水が問題となると、今度は都市の外へ排水する下水道が考案され、街中に敷設されていった。人が集まることで新たに発生した問題を、イノベーションを生み出すことでその都度克服しようとしてきたのだ。こうした進歩の積み重ねの結果として、現在の都市がある。

長らく続いた新型コロナウイルス感染症のパンデミックはようやく収束の兆しを見せ、都市に人が戻りつつある。ただ、以前のように都市を再開するだけでは十分ではない。世界中で都市化が加速し、2050年には人口のおよそ7割が都市に住むようになると予測される今、都市が抱える負の側面はそのまま世界の重要な問題となりつつある。世界的困難を乗り越えた経験を生かし、都市をさらに魅力的なものに進歩させることが私たちにはできるはずだ。

(MITテクノロジーレビュー[日本版]編集部)


MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.5
Cities Issue

  • 定価:2,420円(本体2,200円+税)
  • 発売日:2021年11月15日(印刷版)/11月22日(電子版)
  • 判型:A4判/128ページ
  • 形態:ムック(雑誌扱い)
  • 発行:株式会社角川アスキー総合研究所
  • 発売:株式会社KADOKAWA
  • 雑誌コード:63692-90/ISBN:978-4-04-911091-3
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Vol.5の主な収録記事

ポスト・コロナの時代 私たちは「都市」に回帰する

人口が密集する都市生活の魅力がパンデミックで薄れてきたという声もある。しかし、さまざまな人が集ってイノベーションを生み出す“場”を提供する都市の価値はこれからも変わることはない。

原 研哉 インタビュー
世界は遊動の時代へ

日本を代表するデザイナーの1人であり、国内外を問わずさまざまなジャンル、規模のプロジェクトに参画している。一方で、デザイナーという立場から、企業だけでなく社会全体に目を向け課題解決の提案をし続ける。コロナ禍を経験した世界、そして日本におけるこれからの社会について、原氏の考える3つのキーワードを軸に話を伺った。

「草の根」から始まる 新しいスマートシティ論

スマートシティといえば、「最新テクノロジーを積極的に取り入れて、人々の生活をより豊かなものにする」といったイメージが強い。しかし、東京大学の森川博之教授は「その発想は変えたほうがいい」と警鐘を鳴らす。第一人者が語るスマートシティの現状、問題点、そして未来とは。

ドローン空撮が暴き出す、都市に潜む不平等

ドローンによる空撮で都市の姿を映し出すプロジェクト 「不平等な風景(Unequal Scenes)」は、世界中の至るところに潜む問題を明らかにしてきた。同プロジェクトの写真の一部を紹介する。

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