●コネクテッドデバイスやデータ量が増え 「データグラビティ」が起きる デジタル化の対象は、交通網を制御する信号機や物流システム、スマートホーム、コンピュータ・スマートフォン、太陽光パネル、スマートシティなど、さまざまな分野に広がってきている。このような中で、データの持つ意味もより重要になり、データを生み出すモノも多様化している。 たとえば、インターネットの進展で通信分野を中心にコネクトされたIoTデバイスが増加してきた。5年先、10年先を見据えると医療系、産業機器系、コンシューマー系、自動車・宇宙航空系まで、IoTデバイスが広がる。それに伴いIoTデバイスを管理する製品・サービスのニーズも高まると予想され、CAGRは25%ほど拡大する(2020~2025年度)と見積もられている。 金谷氏は「コネクテッドデバイスが増加する話は10年前ぐらいからありましたが、いまなおモノにインターネットが接続されている比率は1%未満。データ活用が広がり、残りの99%が接続されると、創出価値も非常に大きくなっていくわけです」と説明する。 コネクテッドデバイスが増加することは、データソースが増えて取得データが増えることでもある。現在、データセンターやクラウド領域のデータ量が増大するのと並行して、クラウドと対極に位置する現場のエッジ領域で生み出されるデータも増加している点が1つのトレンドになっている。金谷氏は、エッジ領域で生成されるデータの例を説明した。 「たとえばコネクテッドカーでは、交通管理や走行支援に活用する車両のプローブデータ、高精度3次元地図(HDマップ)からのデータ、光検出と測距を行うLiDARデータ、電子制御ユニット(ECU)データ、自動運転の制御データなどがあり、エッジ領域のデータが増加しています」(金谷氏) このようにコネクテッドデバイスが増え、データ量も増えてくると起きるのが「データグラビティ」と呼ばれる変化だ。これは大規模データの存在地点にアプリケーションが誘引される傾向のことで、重力にたとえて表現されたものだ。 データグラビティの傾向は、クラウドやデータセンターだけでなく、コネクテッドカーやスマート工場/デジタルツイン、環境モニタリングなどでも同様だ。データ量が大きく処理も重いため、アプリケーションを端末やデータソース近傍に置く動きが加速する。 「これまで主流となるコンピューティング環境は外部(オフサイト)と現場近辺(オンサイト)を振り子のように行ったり来たりしています。メインフレームからクライアント/サーバ、クラウドからエッジコンピューティング、という流れも、振り子の揺り戻しの一環と見ることができます」(金谷氏) データ処理の観点では、第三世代のAIがデータの民主化をもたらしている。機械学習とディープラーニングにより、データの認識や推定の精度が格段に高まった。画像認識、チャットボット、推論エンジンなどが実用的になり、とりわけIoTとAIが企業に浸透し始めている。もともと両者は親和性も高い。IoTで大量データを吸い上げ、AIで認識・分析・予測するために用いられるからだ。 ●IoTシステムのテクノロジーの採用動向の影にコロナ禍の影響も 続いて金谷氏は、IoTシステムに関わる技術採用の最新動向についても説明した。IoTプロジェクトを2017年と2020年で比較すると、特に投資が際立つ分野は「人のトラッキング(導線、見守りなど)」(21%)、「人の健康のモニタリング/分析」(18%)、「小売店舗のモニタリング」(12%)だという。 「これはコロナ禍の影響があると考えられます。CO2濃度から混雑度を見たり、導線をトラッキングして混雑緩和に役立てるソリューションも登場し、IoTプロジェクトの対象も徐々に変化しています」(金谷氏) またIoT技術スタックには、多数のレイヤーとテクノロジーがあり、複雑な技術体系や人材スキルの横断的な管理が、IoTプロジェクト特有の課題になっている。 「たとえば、アプリケーションレイヤーではアジャイル開発環境や、AI/機械学習/データ分析、BIといった技術基盤が求められています。次にIoTプラットフォームやクラウドネイティブ開発(PaaSなど)のプラットフォームレイヤーが必要です。これには、EdgecrossやFIELD systemといった産業系プラットフォームも多くあります。複数メーカーかつ独自性の強い生産設備、PLC、産業用PCなどを視野に入れなければならない点もエッジコンピューティングの課題となります」(金谷氏) コネクティビティのレイヤーでは、短距離無線、無線LAN、低電力消費なLPWA、高速な5Gまで、ネットワークの選択肢も多い。さらにモジュールやデバイスのレイヤーでも、センサー、アクチュエーター、ロボット、ドローン、XR、ウェアラブルと多岐にわたるコンポ―ネットがあるため、一社ですべてをカバーすることが難しい状況だ。 「しかし、これらの技術を総合的に網羅しないと、IoTのパフォーマンスを高められないため、できるだけ総合的に理解し、システム化していくことが大切です。自社で足りない部分は外部ベンダーやプロバイダーに頼り、やり繰りしていく必要があるでしょう」(金谷氏)
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