
進化の“ミスマッチ”が起きている
──著書『スマホ脳』が日本で発売されてから9ヵ月ほどが経ちます。依然、反響を呼んでいますが、自国スウェーデンでの反応はいかがですか。 スウェーデンで『スマホ脳』が発売されたのは、2019年でした。そこから、人間とデジタル・テクノロジーとの関係についての議論は活発になりました。私が望んでいたことが起こったと言えます。 この本で述べたかったのは、決して「80年代のような生活に戻れ」ということではありません。私がもっとも強調したかったのは「長い人類の歴史を見ても、ここまで速いスピードで人々の行動が変化する時代はなかった」ということです。 もはや、私たちがITテクノロジーなしで生きていくことは不可能です。だからこそ、いまデジタル機器がもたらす弊害について論じ、共生していくための建設的な議論が欠かせません。 私が本書で問いたかったことは2つ──なぜ、私たちはここまでしてデジタルデバイスを過度に利用してしまうのか。そして、デジタル機器は私たちの集中力や記憶力、幸福度にどのような影響をもたらすのかということです。 人間の脳は1万~2万年の時間を経ても変わっていません。狩猟採集の時代から、脳はそのままなのです。祖先たちと同じく、私たちには良質な睡眠をとる必要があり、対面で社会的な交流を育む必要があり、体を動かす必要があります。生物学的な視点で、私たちの体をいま一度捉え直すことが大切なのです。 ──著書の冒頭で米国の心理学者スティーブン・ピンカーの言葉──「初期人類が遺した最大の遺産は、現代的な考え方だ」──を引用していたのが印象的でした。どのような意図があったのですか。 彼の言葉は、まさに私が言いたかったことを代弁するものでした。「人間は生物学的にまったく変わっていない」ということを指摘する優れた表現です。 私たちは太古の昔とはまったく異なる世界に住んでいますが、今も昔も求めるものは同じです。たとえば、かつての人類にとってカロリーのある食物を得ることは困難で、常に餓死のリスクがありました。運よくカロリーのある食べ物を見つけたときには「全部食べる」という行動をとるのが、正しい判断だったわけです。 いま、私たちが暮らしている世界ではカロリーは無料のような存在ですが、脳のプログラムは変わりません。生きるためにカロリーを求めてしまうのです。結果として、肥満や2型糖尿病などの生活習慣病に苦しむ人が増加しました。 デジタル機器についても同じことが言えます。デジタル機器の存在によって、私たちの集中力はすぐに削がれてしまいます。しかし、気が散りやすいのはバグでもなんでもなく、特徴です。私たちは周囲の情報に対して、注意を払うように設計されているのです。 太古の人類は、外敵から身を守るために常に周囲の状況を把握しなければなりませんでした。それがいまとなっては、私たちの脆弱性となっています。デジタル機器に囲まれた現代では、そのことについて知っておかなくてはなりません。
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