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テクノロジーで着実に進む「MaaS」変革 私たちの“移動”を変える3つのアプローチ - ITmedia

 近年、人の移動を取り巻くモビリティの話題の中で「MaaS」という言葉を見かける機会が増えてきた。「Mobility as a Service」──これはテクノロジーを活用して、さまざまなモビリティを一つのサービスとして提供するという概念だ。

 MaaSはもともとフィンランドで始まった。この国では公共交通網の整備が遅れたため、移動の中心は自家用車。そのため都市部での慢性的な渋滞や駐車場不足、大気汚染という問題に直面していた。国連によれば、2050年には世界人口の68パーセントが各国の都市部に集中すると予想されており、この問題はフィンランドに限らず、多くの国で問題視されている。

 フィンランドでMaaSの概念を生かした取り組みが成功したのは、2018年7月に「運輸サービスに関する法律」が成立したためだ。デジタル化によって、事業者の垣根を超えて各公共交通機関の駅の場所、時刻表、運賃や遅延情報が集約され、大幅に効率化されたからだ。

特集:移動を変える「MaaS」 シェアリングエコノミーが見せる未来

2021年、電動キックボードの普及に向けた規制緩和が国に認可されるなど、モビリティの分野におけるシェアリングエコノミーが前進しようとしている。これをきっかけに、ITとモビリティが結び付く「MaaS」で世の中がどう変わるのか。

レベル分けされているMaaS

 スウェーデン・チャルマース工科大学の研究者は、次のようにMaaSのレベルを設定している。

レベル0(統合なし)

1つ1つのサービスが分断された、旧来のスタイル


レベル1(情報の統合)

複数の公共交通機関(マルチモーダル)を組み合わせたルート比較、移動時間、料金案内。


レベル2(予約・決済の統合)

複数の公共交通機関の予約・決済を一元化


レベル3(サービスの統合)

レンタカー、カーシェアリングなども含めたサービスおよび料金の統合化。月額固定料金制で乗り放題などのサービスが含まれる


レベル4(政策の統合)

国家レベルで数多くの事業者のサービスをとりまとめる

 フィンランドの事例はレベル4をクリアしている。対して現在の日本を鑑みると、「レベル1(情報の統合)」は実現している。これはジョルダン、Yahoo!乗換情報、NAVITIME、Googleマップなどのマルチモーダルサービスが当てはまる。

 そして現在、国内のいくつかの事業者が「大都市型MaaS」「郊外型MaaS」「観光型MaaS」と区分けして「レベル2(予約・決済の統合)」の実証実験を行っている。

大都市型MaaS──GPS管理で使い勝手が高まる電動キックボード

 大都市型MaaSの取り組みは、東京メトロが2020年に始めた「my! 東京MaaS」の事例が参考になる。取り組みの軸となるスマートフォンアプリでは、雨にぬれずに済むエレベーターが使えるルートといったパーソナライズされた案内に加え、同社と連携するタクシーやコミュニティーバス、シェアサイクルの利用を含めた経路検索も可能とした。

 こういった大規模交通インフラが進めるMaaSに今後加わると予想できるのが、現在各地で実証実験が行われているシェアリング電動キックボードだ。時速15km/h制限となるが、ヘルメットを着用しなくても乗れるため、電車やバスからの乗り継ぎがしやすい。事業者側としても、シェアサイクルより省スペースで管理できるというメリットがある。

 長谷川工業(大阪市)が千葉県千葉市の一部エリアで行っている実証実験では、セグウェイジャパンのネット接続型電動キックスクーター「Segway Commercial Max Plus」の日本仕様を使っている。

photo 長谷川工業のキックボード

 このモデルにはGPSとモバイル回線が使える通信機能が内蔵されており、走行可能エリア外ではモーターが駆動しなくなる。GPSによって位置情報を管理されているというわけだ。この位置情報をバッテリー残量やタイヤの摩耗状態などのデータを含めて外部に提供できるようになれば、MaaSに関連したサービスへの組み込みも楽に行えるはずだ。

 余談だが、この電動キックボードの予約はLINE公式アカウント経由で行う。自社の独自サービス・アプリではなく、一般に普及している他者のサービス・アプリを使っているところも興味深い。

photo

 なお、警察庁の「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」の報告によれば、時速15km/h制限の車両区分が新たに設けられるかもしれない。日本の道路運送車両法では時速20km/h以下の車両であれば、ウインカー・テールライトを装備しなくても問題がなく、フロントライト・ナンバー灯・反射板の装備に関しても改正を検討中だ。

 海外で生産されている電動キックボードのグローバルモデルを日本で扱いやすくなることから、他の事業者が参加しやすい環境が整う。

郊外型MaaS──日常の買い物でも活用できる電動カートに注目

 郊外型MaaSは、筆者の考えでは2つのケースに分かれる。1つは事業者が都市計画の一環として進めるもの、もう1つは自治体レベルで推進するものだ。

 前者は東急グループの例が参考になる。東急グループは過去にたまプラーザ駅の半径2kmをカバーエリアとした郊外型MaaSの実証実験を行った。たまプラーザ駅から渋谷への快適な移動手段としてハイグレード通勤バスを用意。また駅周辺エリアの移動手段として、バス停がなく乗車・降車地点を自由にリクエストできるオンデマンドバスを走らせ、2人乗りのパーソナルモビリティやカーシェアのサービスも提供した。

 後者は茨城県土浦市が推進していた「つちうらMaaS」の例を見ていこう。2021年2〜3月にジョルダンのモバイルアプリ「乗換案内」と連携し、市内バスの1日乗車券をキャッシュレス決済できる機能を提供。

 また、公共交通不便地域におけるオンデマンドバスの運行や、自動運転一人乗りロボ「ラクロ」、つくば霞ケ浦りんりんロード(自転車道)の一部区間において電動キックボードの走行実験も行った。電動キックボードは車のドライバーからも、ロードバイク愛好家からも敵視されがちな乗り物だが、あえて自転車道での実験を行うあたり自治体レベルで電動キックボードの優位性を確かめようとしていることが分かる。

 いずれにしても公共交通網の網の目をカバーする移動手段を用意することで、地域の価値を高めることができるのかが焦点となる。免許を返納した住民に対してのケアを考慮するのであれば、乗り降りしやすく、移動中に座ることも可能で荷物も積みやすいシニアカーと呼ばれる電動カートのICT化が期待される。

 電動キックボードと同様に折りたたみ可能、省スペースで管理できるモデルが生産されていることから、ビジネスユースでも注目されるだろう。

photo 折り畳めるシニアカー「NOAA MOBILE-X」
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観光型MaaS──観光地におけるオンデマンドバスの優位性

 コロナ禍となって以来、厳しい日々を過ごしている観光業界にとって観光型MaaSは福音となるだろうか。東急、JR東日本、伊豆急行が進めてきた伊豆・西伊豆・静岡エリアをカバーした「Izuko」は、電車やバスが乗り放題となる2日間有効のデジタルフリーパス、連携するレンタカー・レンタサイクル案内、オンデマンドバスの整備を組み合わせて提供している。1泊2日のワーケーション、観光需要の創出を目指した。

 坂道の多い場所柄、電動キックボードは不適切だろう。また家族4人といったパーティ移動も多いはず。ならばこそオンデマンドバスの評価が高まるものと考える。しかも「Izuko」で使われたオンデマンドバス「Izuko いずきゅん号」は、車内で極力密とならないよう全席に専用のドアが設けられた遠隔型の自動運転EVバス。最高速度19km/hと設定することでシートベルトの装着義務がなくなり、広いウィンドウから風光明媚な景色を楽しめるものだ。

「Izuko いずきゅん号」が採用したシステムだと、天候が悪い時は遠隔操作ができず運行中止となったそうだが、観光地のモビリティとして適しているのではないだろうか。

 MaaSのシステムが全国津々浦々に行き渡るにはまだ道のりは長いが、日本でも少しずつ着実に進んでいる。

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