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デジタルテクノロジーとの繋がりで新たな価値を創造する――第3回未来まちづくりフォーラム(3) | SUSTAINABLE BRANDS JAPAN - 株式会社 博展(サステナブル・ブランド企画推進室)

従来の事業分野やまちづくりに、社会課題解決の考え方と最先端のテクノロジーが揃って接続した時、単なるソリューション以上の価値が創造される――。第3回未来まちづくりフォーラムの特別セッションで語られた2つの連携事例を知れば、きっとそう感じるだろう。サバ専門店「SABAR」などを手掛ける右田孝宣氏の新事業体「フィッシュ・バイオテック」とNTTドコモによる技術を活用した新しい水産養殖の形は、これまでになかった食文化までをも広げようとしている。そして徳島県とNECネッツエスアイの協働による県全域の5Gネットワークは医療や産業に欠かせないインフラを形成しつつあるだけでなく、県外の人との繋がりを視野に入れている。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

完全養殖で「サバの生食」文化が浸透すれば何が変わるのか

特別セッション「養殖サバで社会課題解決!」
右田孝宣氏 株式会社鯖や 代表取締役/株式会社SABAR 代表取締役/フィッシュ・バイオテック株式会社 代表取締役
山本圭一氏 株式会社NTTドコモ 地域協創・ICT推進室 担当課長

サバの加工・卸を手掛ける「株式会社鯖や」と、とろサバ(マサバの中で脂質含量が21%以上あるサバ)を中心に提供するサバ料理専門店「SABAR」を展開する事業家、右田孝宣氏。以前経営していた居酒屋でサバ料理が人気メニューだったことから、配偶者の一声でサバ一筋に取り組んできた自称「サバ博士」が、年々減少するとろサバの漁獲量に危機感を抱き2017年に設立したのがフィッシュ・バイオテック株式会社だ。

同社は種苗生産の開発などサバ養殖に関わる研究開発事業に加え、ICT技術を活用した独自のスマート養殖も手掛けている。フィッシュ・バイオテックでは当初、JR西日本が手掛ける陸上養殖の「お嬢サバ」や、福井県小浜市で酒粕を与えて育てられる養殖サバ「酔っ払いサバ」のなど、ほかの生産者の養殖サバをブランディングすることで水産養殖に関わり始めたという。右田氏は元来、飲食店の経営者。養殖のノウハウを持っていなかった。「餌のコストは高く、(養殖業は)素人ではできないことがある」と感じていた。そこで連携をしたのが、通信事業者のNTTドコモだ。技術を活用することで「誰でもサバ養殖を簡単にできるモデルをつくり、新規参入を促し水産業を発展、地域の活性化にも貢献できる」と手応えを語る。

両社が連携することでどのような課題が解決できるのだろうか。山本氏は「漁業就業者は、最近では1年間に1万人減少しているような状況。全国で15万人ほどだが、そのうち40歳以下は2,6万人しかいない」と就業者の減少をその一つに挙げる。

その理由の一つはコストにある。そもそも養殖経営のコストの内訳は、餌代が約70%を占めるという。餌の中に入っている魚粉はほとんどが輸入品。価格が年々上昇し、2000年以降で約3倍にもなっている。かつ、出荷時の魚の価格は市況によって決まる。漁価は全体的に年々減少傾向にあり、コロナ禍での需要減も価格の下落につながった。餌代は上がり、魚価は下がる。「日本の養殖経営の9割以上は中小零細と言われているが、今はすごく厳しい状態」と山本氏は話す。

この課題を解決し、持続可能な漁業を実現しながらより美味しいサバを消費者に届けるために何ができるのか。NTTドコモとフィッシュ・バイオテックの挑戦はそこにある。そしてこの挑戦には大きなチャンスも潜んでいる。

実は国内で養殖される魚の9割以上はマグロ、タイ、ブリ、サーモンが占めるという。サバの割合は1%以下というマーケットだ。サバは足が早い、アニサキスのリスクといったネガティブなイメージが強い。そして国内では現在140万匹ほどのサバが養殖されていると言われているが、うち約85%は天然サバを捕獲し、短期間で餌を与えて育ててから出荷する「畜養」という方法。天然サバはアニサキスキャリアの可能性が高く、生で食べることにリスクがあることは事実だ。一方、残りの約15%の完全養殖サバはどうか。アニサキスの感染経路がなくリスクはほぼない。

フィッシュ・バイオテックでは今年で5世代になる種苗生産をしている。病気になりにくいなど選抜した種苗で世代を進めているため、アニサキス感染のリスクは減少する。また餌に木酢液を加えることでアニサキスの活動を抑制する試みも行っている。さらに定期的な検査は欠かさない。毎月1回の公的機関による検査に加え、月に100匹以上の自主検査を行う徹底ぶりだ。

右田氏は「狙うはサバの生食需要」だと語る。現在ほぼゼロのマーケットだが、アニサキスス・フリーのサバの安定供給が実現すれば――。仮に大手の回転ずし5社で全国2000店舗があるとして、1日に20皿のサバの握り寿司を出せば、年間144万匹が消費される計算になる。これは現在の養殖サバの全量と同等だ。もちろん大手回転寿司チェーン以外にも需要は生まれるだろう。「サバは養殖魚の次のスターになるのではないか」と右田氏は期待を込める。

スマート養殖でNTTドコモが担うのはICT技術だ。同社が持つ海洋の観測技術(ICTブイ)のノウハウを養殖に生かしているという。例えば海況シミュレーションは流向・流速や水温の将来予測をする技術だ。

データの蓄積と活用によって、給餌を適切に、自動で行えるようになる。また捨てられている食材を餌に活用する取り組みも加え、餌のコストを50%削減することを目指しているという。そのためフィッシュ・バイオテックでは餌自体の開発も行う。従来の餌に使われる魚粉はカタクチイワシだが、カンボジアの農村地で養殖生産されるティラピアに変更することを目指す。現地のたんぱく源不足をまず解消し、余剰を買い取ることによって地域経済をつくりだすことも視野に入れる。

右田氏は「新規潜入の課題をクリアしてきている。種苗は提供できる。ノウハウはICTにより蓄積されている。販路は『鯖や』がマッチングすることも可能ではと考えている。この仕組みであれば、市況だけに左右される従来の生産者の収入体系と異なり、種苗を入れたときからある程度の収益が見込める。日本の中で、これから成長するマーケットはなかなかない。既存の養殖業者とも手をつなぎたい。サバの生食文化をパートナーシップで広げたい」と力を込めた。

ローカル5G活用し形成するネットワークが重要なインフラに

特別セッション「自治体DXを支える自立型都市ネットワーク」
松本好史氏 徳島県経営戦略部スマート県庁推進課 副課長
有川洋平氏 NECネッツエスアイ株式会社 ビジネスデザイン統括本部 デジタルタウン推進本部 担当部長

NECネッツエスアイは、もとはNECの通信工事部門を担っていた企業だ。現在はシステムの企画・構築から保守、運用、アウトソーシングなどのサポートやサービスまでワンストップで対応する事業を手掛けている。

同社は「デジタル×5G」を中期戦略の中で大きく掲げている。未来まちづくりフォーラムで発表した徳島県との連携による自立型都市ネットワーク形成もその一環。「徳島県ではローカル5Gによる地域の課題解決に取り組んでいる。令和2年度から本格的に計画が動き出し、10カ所前後の5G基地局の設置を予定している」と話したのは松本氏。

徳島県の5G通信活用の取り組みは「徳島5G革命」と題された以下の動画を見ればイメージしやすい。

医療分野では県立病院に基地局を設置し、4K映像を活用し地域の診療所との遠隔診断、診療。救急患者の医療情報共有に活用する。防災分野では、県が管理する河川に高性能カメラを設置し、夜間帯に高精細映像を防災システムにリアルタイムで転送。同時にインターネット上やケーブルテレビ上でも放映し、地域の住民の避難勧告に活用しているという。このほか農林水産分野では遠隔の技術指導などを行う。

有川氏は「5G通信はインフラに過ぎない。インフラを十分活用できるデジタルソリューションを組み合わせ、コミュニケーションサービスを展開している」と解説する。具体的には、従来の地域BWA(電気通信業務用の無線システム)やLPWA(Low Power Wide Area/消費電力を抑えて遠距離通信をするための通信方式)を、ローカル5Gを中心とした自立型ネットワークとしてまとめてネットワークを形成する。その上でソリューションを乗せるという。

有川氏は「分散型社会への移行は加速すると考えている。医療や防災・減災だけでなくテレワーク支援なども併せて行うという考え方」だと話す。分散しても社会や地域を孤立させずにネットワークを形成し、社会課題解決のプラットフォームとして全体が機能する構造だ。「最終的にはスーパーシティ構想にも(つながっていく)」と展望を見込む。

また有川氏は「ローカル5Gを活用すればセキュリティ面を担保したネットワーク環境が組める。テレワークの推進につなげていければ。今後、ネットワークが重要な社会インフラのひとつとなると考えている。地域活性化の大きな起爆剤になる。十分に活用して社会課題解決、価値創造に取り組みたい」と意欲を見せた。

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