9月上旬に開催された米旅行調査会社フォーカスライトが主催する「フォーカスライト・ヨーロッパ2020」では、日本でも毎年開催されているWiT(Web In Travel)も併催され、アジアの旅行市場が展望された。そこでは、世界の旅行市場で重要度が増している「サステナビリティ」や「次世代交通」についての議論も展開された。
新しいテクノロジーの導入が加速、出張需要は回復するのか
WiTでは、まず回復が著しい中国市場について、アマデウスAPAC上級副社長のMieke De Schepper氏が、個人旅行、若者、ラグジュアリー、近場を国内市場の傾向として挙げたほか、コロナ禍で空港では非接触・非対面、AIベースの検温システムなど、最先端テクノロジーが旅行市場に次々と導入されていると報告した。
アマデウスは、GDSとして国際線の流通で大きなダメージを受けているが、ITソリューションのビジネス機会が増えているという。たとえば、空港やホテルは、利用者が激減している現状を逆にチャンスとして、さまざまなテクノロジー・サービスの導入や実証を進めていると説明した。
ルフトハンザ・イノベーション・ハブのアジア・ビジネス開発リーダーのChristine Wang氏は、中国の業務渡航について触れ、リモートワークなどが広がる中、中国からのアウトバウンドが再開されたあと、業界では出張需要が戻るかどうかへの関心が高まっていると発言。また、中国ではコロナ禍でライブストリーミングな新しい販売流通が進んでいるが、この動きに旅行会社などサプライヤーがどのように対応していくか注視しているとした。
各国で国内旅行市場が復活している中、海外旅行予約をメインとするOTAアゴダ副社長のTimothy Hughes氏は、日本やタイなど各国政府が進めている国内需要喚起策にも参画していると説明。しかし、「レジャー需要は喚起できるが、東京やバンコクなど都市部でのMICE需要はインバウンドに頼っているところが大きく、この喚起策の恩恵は受けていない」と指摘した。
韓国のデジタルトランスフォーメーション企業TIDESQUAREの最高戦略責任者のJun Shin氏は、韓国の状況について、国内旅行需要は回復傾向にあるが、消費者は依然として感染状況や政府の対応に敏感に反応することから、回復と停滞を繰り返していると説明した。
このほか、Zoomなどリモート会議が、今後の業務渡航に与える影響ついて、すべての出張がZoomに置き換わることはないとの意見で一致を見た一方、ワクチン接種、コスト削減、効率性の追求などで業務渡航の方法は確実に変化するとし、サプライヤー側はそのニーズに応える柔軟性が必要になるとの意見も聞かれた。
WiT、ライブストリーミングとスーパーアプリの動向に注目
フェイスブックと米コンサルティング会社ベイン&カンパニーの調査によると、東南アジアにおけるデジタル消費者は2018年の2億5000万人から2020年には3億1000万人に拡大。パンデミックのなか、28%が新しいeコマース・アプリを試したと回答。新しい電子決済アプリを試した割合は27%にのぼった。また、77%がポストコロナでも、新しいアプリを使い続けると回答した。
この調査結果をもとにパンデミックのなかでのデジタル消費行動の変化についても議論。タビナカ予約クルック(Klook)の東南アジア担当マーケティング・ディレクターのSarah Wan氏は、注目するテクノロジーフォーマットとしてライブストリーミングを挙げた。クルックでもライフストリーミング販売を実施。Wan氏によると、プロモーション効果だけでなく、ライブでの収益も挙げたと明かし、ポストコロナでも有望な手法になるとの認識を示した。
ベンチャーリパブリックCEOの柴田啓氏は、LINEトラベル.jpの取り組みについて説明。ロケーションごとにプッシュ通信による情報発信を行うことで、国内需要を喚起するキャンペーンを岐阜県の自治体と県内のユーザーを対象に実施したことを紹介した。サプライヤー側にとってはターゲットが絞れ、消費者側は今欲しい情報を取得できる。そこが、スーパーアプリであるLINEの強みだとした。
南米でスーバーアプリとeコマースプラットフォームを展開するRappiのトラベル部門リーダーのGuido Becher氏は、同社のスーバーアプリでさまざまなアイデアを取り込んでいく考えを示した上で、今後注目するべきトレンドとして、旅行素材でビジネスを拡大しているグーグルの動きだとしたうえで、アフターコロナでは、SNSなども含めて、新しいマーケティング手法が出てくるのではないかと指摘した。
そのグーグルについて、柴田氏は、依然として巨大なマーケティングツールで、大手OTAもグーグルから離脱することは考えられないとしながらも、パンデミックは自社の戦略を見直す機会になっていると指摘。今後、販売チャネルの多様化が進む可能性に言及し、そのなかでスーパーアプリの存在感はさらに高まるとの見解を示した。
一方、クルックは、グーグルへ頼るのではなく、自社でのコミュニティづくりに注力し、顧客と直接コミュニケーションすることを重視していると説明。顧客が現在最優先しているのは安全性であることから、施設やアクティビティの詳細な情報を提供していく必要があるとした。
持続可能な観光にはコミュニティーの関与が必要
旅行におけるサステナビリティについては、トラベルファンデーションCEOのJeremy Sampson氏が講演した。トラベルファンデーションは、旅行による環境への影響で提言を行っている5つの国際団体ともに「Future of Tourism」を策定。そのなかで、「全体像の把握」「サステナビリティ基準の策定」「デスティネーションマネージメントでの協調」「量より質」「収入の公平な分配」「正しいコミュニケーション」「マーケットの多様化」など13の指針を掲げていることを説明した。
また、コロナ禍で進むニューノーマルで、旅行産業が生き残るためにはさまざまな壁があると指摘。そのうえで、サステナビリティツーリズムに向けた新しいモデルを構築していくうえで大切なこととして、「コスト、影響、リスクなどを測るデータ」「コミュニティーの積極的な関与」「官民が課題を共有すること」「幅広い観光バリューチェーンの中での人材育成」「持続可能な成果を生み出すための投資」を挙げ、その取り組みが持続可能な商品を生み出し、地域のサプライチェーンや生活の力をさらに強めることになると主張した。
MaaSでのスーパーPNRは可能か
「Beyond Travel」と題したセッションでは、パンデミック後の交通について、各パネリストがそれぞれの立場から、ニューノーマルにおける顧客体験でも、企業のより効率的なビジネスのためにも、よりスマートトラベルは進むと発言し、現在の危機は将来のイノベーションに向けていい機会になるとの意見を共有した。
また、次世代の交通システムについても議論。ウーバーのEMEAリーダーのChristophe Peymirat氏は、コネクテッド・トリップ(いわゆるMaaS)としてのマルチモビリティ、サステナビリティをキーワードとして挙げ、鉄道の予約販売サービスを展開するTrainlineのジェネラルマネージャーDavid Higgins氏は、ラストワンマイルでの課題について言及。さまざまな交通プレイヤーが協力する意義を強調した。
そのうえで、さまざまな交通機関をシームレスに利用できる「スーパーPNR」という考え方について、ライアンエアーのマーケティング&デジタル・ディレクターのDara Brady氏は、考え方には賛成するも、ビジネス環境が細分化されているため、実施は非常に難しく、現実的ではないとの立場を示した。
このほか、交通機関のサブスクリプションモデルについて、TrainlineのHiggins氏は、リモートワークなどが拡大することで、鉄道での通勤の頻度が変わってきているなか、さまざまなチケットオプションを提供することが必要だろうとの見解を示した。
トラベルジャーナリスト 山田友樹
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