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3月19日の夕方、シリコンヴァレーの著名投資家でシリアルアントレプレナーのバラジ・スリニヴァサンが、自身のツイッターにポストを連投した。その内容は、テクノリバタリアンたちに戦闘開始を呼びかけるものだった。
「すべてのバイオテック&テック関係者に告ぐ。ウイルスを巡るマンハッタン計画はパロアルト計画になりそうだ。未来はわれわれにかかっている。政府の技術力にはもはや期待できない。一晩で解決するのも無理だろう。だが、生物医学的イノヴェイションの合法化を政府に認めさせ、挑戦する権利を拡大することはできるはずだ」
スリニヴァサンは『WIRED』US版のコメント要請には応じなかったが、その後のツイートで真意を明らかにした。いわく「パロアルト計画」とは、ヴェンチャーキャピタル(VC)に支援されている「テック企業またはバイオテック企業」の世界を表現しているという。J・ロバート・オッペンハイマーらが強い決意をもって原爆開発を進めたように、こうした企業が強い決意をもって結集すれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の謎を解決できるはずだとスリニヴァサンは考えていた。
スリニヴァサンはシリコンヴァレーのなかでも極端なテクノロジー至上主義者だ。彼のような人間が平時にバイオテクノロジーの規制プロセス緩和を訴えたところで、それは「素早く動いて破壊せよ」と言っているのと同じ、シリコンヴァレーの典型的なレトリックだと受け止められて終わりだろう。しかしいまは状況が違う。社会の実存的な脅威に駆り立てられて、シリコンヴァレーのスタートアップも、通常のバイオテクノロジー企業も、一斉にCOVID-19対応へと舵を切った。病院は患者数と死者数の増加ペースに後れをとらないよう、ICU病棟の収容能力を懸命に拡大している。同様に規制組織がバイオテック企業のペースに付いていけるかどうかは、考えてみる価値のありそうな問題だ。
To all biotech & tech people:
The Manhattan Project for the virus is going to end up being the Palo Alto Project.
It's on us. The state doesn't have tech talent anymore. Can't fix that overnight. But we can get them to legalize biomedical innovation with expanded right-to-try.
— Balaji S. Srinivasan (@balajis) March 20, 2020
過去20年間で、バイオテクノロジーは驚異的としか言いようがない進歩を遂げた。大きな要因はゲノムシーケンス解析が劇的にコストダウンされたこと(その速度はいまやムーアの法則を超える)、ゲノム編集とプログラミングを直接的にかなえる一連のツール(CRISPR-Cas9)が開発されたことだが、最近ではビッグデータ分析や機械学習アルゴリズムを用いて、ほぼ無限に成長を続ける生物情報データベースを処理することも可能になった。「合成生物学」と呼ばれるこの新たな分野は、自然という限界の定められた世界から科学者たちを自由にした。
ほんの数年前には想像もできなかったスピードで、わたしたちは自らの望みを正確にかなえてくれる遺伝的構造を設計し、計画し、量産できるようになった。COVID-19の治療法、検査法、そして最終的にワクチンを開発するという挑戦は、スリニヴァサン以外の人々にとっても、合成生物学という新たなツールを活用する絶好の機会と映っているだろう。バイオテクノロジーの開拓者たる科学者たちにとって、パンデミック(世界的大流行)との闘いは、彼らが一生をかけて向き合い続ける仕事だ。
超高速の治療工学×超高速の製造技術
スリニヴァサンは連続ツイートのなかで、現在進行しているCOVID-19関連の技術プロジェクトを長いリストにまとめた。そのリストには、最先端のアプローチを通じて抗体発見と医薬品製造に挑む合成生物学のスタートアップ、新型コロナウイルス検査に取り組むふたつの別々のグループ、開発が進められている有望なワクチンの情報などが掲載された。
スリニヴァサンが「パロアルト」として紹介したなかには、実際にはパロアルトの近くにない企業も含まれている。また現実的なワクチン開発プロジェクトは、政府と民間企業の協力なくしては進まないものだ。しかしそれでも、バイオテクノロジー、コンピューティング、COVID-19が交わる世界を写し取ったスリニヴァサンの投稿は、現状把握のためには大いに有効だった。
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