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元Google技術責任者が教える、アイデアを成功に導く手法 - Lifehacker JAPAN

「失敗は許されない」。

この言葉は、映画の主人公が言えばカッコいいですが、新商品開発の現場にはそぐいません。

なぜなら、「新しいアイデアの90%は失敗する」からです。それが、「たとえ、どんなにきちんとつくって売ったとしても」。

こう言い放つのは、「世界のベストCTO 25」賞などの受賞歴を持つ、起業家・イノベーター・講演家のアルベルト・サヴォイア氏です。

サヴォイア氏は、(かつて在籍していた)Google社の失敗に終わった「グーグルグラス」などを例に挙げ、いかに新製品・サービスを成功させるのが難しいかを、著書『Google×スタンフォード NO FLOP! 失敗できない人の失敗しない技術』(石井ひろみ翻訳/サンマーク出版)で解説しています。

Google×スタンフォード NO FLOP! 失敗できない人の失敗しない技術

早く安く、成功するアイデアかを確かめる

とはいえ、サヴォイア氏が本書で説くのは、そうしたリスクばかりではありません。金銭的・時間的損失をミニマムに抑えつつ、新しいアイデアに市場性があるかを確かめる手段も提示しています。

それが「プレトタイピング」です。

はじめて聞く言葉だと思いますが、それもそのはず。これは、サヴォイア氏の造語で、「プロトタイプ」をもじったものです。「プレ」という接頭語には、プロトタイプよりも「前」の工程という意味合いと、「プリテンド」(ふりをする)の意味が含まれています。

サヴォイア氏は、プレトタイピングには、プロトタイプをしのぐ大きなメリットがあると力説します。その1つが、期間・費用がかなりかかるプロトタイプよりも、圧倒的に早く安くできるという点。

もう1つは、アイデアのコンセプト自体がそもそも間違っているかどうかを早期に検証し、ダメだとわかったら傷が浅いうちに撤退できるという点です。

プレトタイピングには何種類かあり、本書ではその各々について詳しい解説がなされています。ここで全部を紹介すると長くなりすぎるため、そのうち2つをピックアップしましょう。

お金も時間もかけずに成否がわかる

ビジネスマン
Image: Shutterstock

1つ目のプレトタイピングは「メカニカル・ターク」型。「メカニカル・ターク」とは、「機械じかけのトルコ人」の意味です。これは、18世紀後半に一世を風靡した、チェスを指せるというふれこみの機械人形のことを指します。

実は、それは機械でもなんでもなく、小柄なチェスの名人が中にひそんで人形を操っていました。

プレトタイピングとしての「メカニカル・ターク」もコンセプトは同様。「対象となる技術が高価だったり、複雑だったり、未完成だったりするときで、その技術がおこなうはずの機能を人間がひそかにおこなう」というものです。

サヴォイア氏は、一例として架空の技術アイデア「Fold4U(フォールド・フォー・ユー)」で説明しています。

「Fold4U」とは、乾燥機で乾かした洗濯物を、自動で折り畳んでくれる機械。コインランドリー業者にレンタルすれば、事業として成功するのではないかという読みがあります。ですが、プロトタイプを作るには5万ドルの費用と6か月の期間がかかってしまいます。

そこで、「メカニカル・ターク」の出番です。

開発者のイヴァンは、近所のコインランドリーの店主に200ドルを払い、プレトタイピングを用いた実証実験への協力を得ます。イヴァンは店主から提供された、壊れた乾燥機のタンブラー部分に細工をし、後ろからアクセスできる隠し扉を設置します。

つまり、乾いた洗濯物を折り畳むのは機械ではなく、隠し扉のそばで控えているイヴァン自身なのです。利用客にはそれが見えず、中から聞こえてくるそれらしい機械音は、録音されたダミーの音です。利用者は誰ひとりとして、そんな仕掛けとなっているとは気づきませんでした。

ここで、結末のシナリオは2つに分岐します

1つめは、イヴァンが想定していたよりも、お金を払ってまで「Fold4U」を利用する人は、ずっと少なかったというもの。イヴァンは、がっかりしたことでしょうが、同時にほっとしていることでしょう。

なぜなら、大きな費用と日数をかけてプロトタイプを作る代わりに、200ドルの費用と1か月足らずの期間で、「Fold4U」が、ビジネスとしては見込みがなさそうだとわかったからです。

もう1つはハッピーエンド。想定外に多くの人が「Fold4U」に料金を支払い、イヴァンはそのリサーチデータを投資家に見せて、見事投資を得るというものです。こちらの場合でも、プロトタイプを作らずに、最小限の出費で済んでいます。

そのアイデアは成功するか

2つ目のプレトタイピングは、「玄関口」を設け、その製品やサービスが実在するかのようなふりをして、あまりお金をかけずにアイデアの市場性を調べるというものです。

この「玄関口」は、実際の店頭だけでなく、広告、ウェブサイト、パンフレットなども含みます。

サヴォイア氏は、雑誌『WIRED』の創刊編集長のケヴィン・ケリー氏の著書を引用するかたちで、この手法の古典的な事例を取り上げています。孫引きすると、ケリー氏は次のように「ニセの玄関」型のプレトタイピングを実施しました。

最初のビジネスは200ドルではじめた。『ローリングストーンズ』誌の後ろに広告スペースを買って、低予算旅行向けのガイドブックのカタログを1ドルで送ると書いたんだ。といっても、そんなカタログも本の在庫もまだこの世に存在しなかった。注文が十分に集まらなかったら、[すべての注文の]お金を返すつもりだったんだ。だけどブートストラップ(低予算でビジネスを立ち上げること)を心がけたおかげで、なんとかうまくいった。(本書153pより)

これは1980年代の話です。今なら、インターネット上で同様の仕掛けができるでしょう。さて、サヴォイア氏は、実店舗を開業すべきかどうかの判断材料となる、「ニセの玄関」の活用例も挙げています。

アントニアさんは、今の仕事を辞めて古書店を開くことを考えています。それに成功するには、店の前の通行人の0.5%に来店してもらう必要があります。

彼女は、20ドルで表示を作り、有望そうな通りに立つ建物のドアに両面テープで表示を貼って、自分は通りの向かい側に陣取ります。選んだドアにつき2~3時間ずつ、通行人の数、表示に気づいた人の数、ドアをノックした人の数などをカウントしました。

何日かやってみて、古書店の開業は失望に終わりそうだと結論が出ます。例えば、ある場所では4千人の通行人のうちノックしたのは3人だけ。別の場所では、もっと多くの通行人がいながら、ノックしたのはゼロだったからです。

アントニアさんは、がっかりはしたものの、見込み客のデータを少ない出費で集め、検証することができ、会社も辞めずに済んでほっとしてもしています。そして、古書店はオンラインで展開するほうがいいかもしれないと、思い始めています。

「意見」は嘘をつく、「事実」だけに耳を貸せ

耳
Image: Shutterstock

本書に登場するプレトタイピングには、ほかにも「ピノキオ」型や「潜入者」型など全部で8種類あり、いずれも低予算・短期間で市場性の有無を判断するデータが得られるものとなっています。

ただし、「有益なデータは、自分が実現しようとしているアイデアにどう影響があるか、きちんと分析」することが大事だとも、サヴォイア氏は力説します。さもないと、データを読み違え、足元をすくわれる結果になりかねません。

その指標の1つが、アイデアに「身銭」を切ってくれるか、というもの。プレトタイピングについては、それは必ずしも金銭ばかりではありません。

例えば、開発者本人は画期的な発明と思っている製品を「メカニカル・ターク」型のプレトタイピングで、デモを行ったとします。

それを見た周囲の何人もが「すばらしいアイデアだ」あるいは「そんなの誰も買わないね」とコメントします。あるいは、ネットの中で発表して、「いいね!」あるいは「よくないね」などとSNSで評価されます。

こうしたコメントや反応は、「まったく価値がない」と、サヴォイア氏は述べています。さらに、アンケートやインタビューも同様で、「身銭」の観点からすると評価ポイントはゼロ。判断材料の指標には、ならないというわけです。

一方、(使い捨てでない)有効なメールアドレスや電話番号を教えてくれるのは、最低限の「身銭」とされます(それぞれの評価ポイントは1と10)。つまり、買う意向はありそうだという意味です。

さらに、30分ものデモを終始見学してくれるなど、時間という形で「身銭」を切ったのなら30評価ポイント、現金をデポジットしてくれたら50評価ポイントへと跳ね上がります。そして、予約注文をしてくれたら、250評価ポイントと最高の値が与えられます。

くわえて、プレトタイピングは1回だけやってみて結論を出すのでなく、微調整・改善を加えながら複数種(最低でも3~5種)行う必要もあるそうです。

初回で「いきなり顔面パンチをくらう」のは、よくあること。打たれるたびに改善をしていき、「反撃」へと移ることで、アイデアの実現性は高まるわけです。


約350ページの大部の本書で解き明かされている事柄は、もちろんこれだけではありませんが、新製品・サービス・新事業を世に出したいと考えている人には、極めて有用な内容となっています。熟読し、実践してみることをおすすめします。

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