15日、満を持して日産『アリア』が発表された。実際の発売は2021年に入ってからで少なくとも半年以上先の話だが、EU勢を含めたEV発表ラッシュも実車の販売は年末から来年前半にかけてだ。そのタイムラグを含んでも、競争力が期待できるスペックが発表された。
量産バージョンの試乗もこれからとなる段階で、いささか気が早いが、発表された内容や公表されたスペック、メール取材の内容をもとに、アリアに投入された主だったテクノロジーについて考えてみたい。なお、現時点では確定している情報も限られている。その範囲での考察を含む記事であることを念頭に読んでほしい。
要素技術のリファインと融合による付加価値戦略
アリアの特徴は、日産としては初代『リーフ』以来、10年ぶりとなる新しいEV専用プラットフォームの採用と、刷新されたバッテリーシステムによる卓越した性能だ。加えてOTA機能の正式採用、アマゾンAlexa対応といったコネクテッド機能の強化。内装では、センターコンソールまで一体化したマルチファンクションディスプレイにカラーヘッドアップディスプレイ(HUD)の採用。物理スイッチを極力排し、センターコンソールの木目調フィニッシャーに埋め込まれたタッチセンサーなどのHMI(ヒューマンマシンインターフェース)。
スペックとしての表記は、とりたてて斬新な技術というわけではないが、たとえばバッテリーの効率アップなど基本性能の向上と、これらの要素技術の融合による付加価値が、全体のパフォーマンスを高めている。
各技術が革新的でないといっても、それはアリアに限ったことではない。テスラもバッテリーやモーターに特別なものを使っているわけではないが、ハードウェア/ソフトウェアの設計によってあれだけの動力性能とOTA対応のオートパイロットという付加価値を実現している。
ライバルはモデルY
アリアには、駆動方式に2WD、4WD(e-4ORCE)の2種類。バッテリー容量に65kWhと90kWhの2種類(使用可能電力量はそれぞれ63kWh/87kWh)があり、4種類のモデルが設定される。動力性能についてみると、90kWのe-4ORCEモデルで最高出力290kW、最大トルク600Nmとなっている。0-100km/h加速は5.1秒。最大航続距離は580km(WLTC)。65kWhのe-4ORCEモデルは610km(同前)となっている。
テスラ『モデルY』(AWD・パフォーマンス)は、最高出力331kW、最大トルク639Nm、0-100km/h加速が3.7秒と、アリアを上回るが、航続距離は480kmと走りに振った分アリアを下回っている。BMW『iX3』は、最高出力201kW、最大トルク500Nm、バッテリー容量が74kWh、0-100km/h加速が5秒、航続距離400kmというスペックだ。
国内では「EVは航続距離が短い」と言われがちなせいか、競合車両と比較すると、航続距離についてはクラストップレベルといっていい。車両重量が最大2200kgと、若干ライバル車より重い(100kg弱)点が気になるが、その他の諸元をみるかぎり、iX3やQ4『e-tron』などにそん色はない。モデルYとは、加速性能で劣るものの、実用航続距離でもアリアに軍配があがる。
シンプルな機構で細かい制御が可能な電動4WD
注目のe-4ORCEも詳細は徐々に明らかになっていくものと思われるが、概要をおさらいすると、前後2つのモーターによる電動4WDシステムは、もちろんコンピュータによって前後のトルク配分が任意に制御可能だ。前後のアクスルは一般的なオープンデフが搭載されるが、左右のトルク調整は電子制御のブレーキによって、加速時、コーナリング、低ミュー路など状況に応じた制御がされる。サスペンションの電子制御は行っていないが、この方式で十分な運動性能と走行安定性、悪路走破性、スタック脱出性能が確保される。
複雑な差動機構やトルク制御機構(アクティブデフや機械式LSDなど)も必要がなく、故障やメンテナンス性もよい。機構がシンプルな分、トルクベクタリング、ブレーキベクタリングの幅が広いのもEVの特徴だ。
これらの電子制御はミリ秒以下の精度で行われる。一般的な自動車向けECUのプロセッサも同様な精度でリアルタイム制御を行っているが、内燃機関の場合、エンジンの反応までのタイムラグがあり、トルク制御の応答時間は数百ミリ秒から秒の単位になることもある。モーターの回転制御は瞬時なので、プロセッサの性能を十分に引き出せる。
待望のバッテリー温度調整システム
バッテリーシステムの進化ポイントは温度管理機能が追加されたことだ。リーフは温度調整機能なしの空冷システムだったため、長時間の高速走行で電費が落ちる弱点があった。また、バッテリーの過熱はセルの劣化を早めるという問題も指摘されている。テスラ他、Cセグメント以上のEVはほとんどバッテリーの温度調整を行っている。
現行リーフも、通常使用でバッテリーの劣化が激しいわけではないが、荷物もたくさん積んでロングツーリングをするクロスオーバーSUVには、ぜひほしい機能だ。
急速充電は、CHAdeMO規格で出力130kWの急速充電に対応する。この出力に対応できる充電器なら30分で375km走行可能な電力を充電できる。ただし、現状の国内急速充電器(CHAdeMO)は50kWのものが多く、最大で90kWだ。100kW以上の充電器は、2021年に設置が始まる予定の高出力充電器(CHAdeMO3.0)を待つ必要がある。アリアの発表から販売開始まで時間があるが、充電インフラの整備を考えると必要なインターバルともいえる。
充電インフラは協調領域としての連携に期待
日産は、これまでどおり充電インフラの整備を続ける予定だ。初期のような大規模な投資はできないかもしれないが、公共性の高いエリアを中心に150kW対応のCHAdeMO設置にパートナー企業らと取り組んでいくとしている。パートナー企業にディーラーが含まれるなら、大手ディーラーなどから設置が進む可能性がある。
輸入車メーカーは、日本では独自に高出力充電器網(CHAdeMO対応)を整備するところもある。排他的な充電器はブランド価値やプレミア感の演出には有効だが、ディーラーを超えた充電プランが実現すれば、これから増えると予想される大容量バッテリー搭載EVの使い勝手がよくなる。テスラのように販売チャネルを持たない分、充電インフラに投資ができる企業以外は、協調領域での連携を期待したい。
発表会では、バッテリーの調達に関する情報もあった。アリアのバッテリーは一般的なリチウムイオンバッテリーを採用している。マンガン、ニッケル、コバルトといった3元系のバッテリー(テスラは容量効率のよいニッケル系)のため、調達先の自由度が高い。テスラやトヨタのように特定サプライヤーと専用工場のアライアンスを組むのではなく、社会情勢や調達条件に柔軟に対応可能な体制だ。
新型コロナウイルスによるパンデミックや自然災害など、安定した情勢を期待できない現在、リスクヘッジとしては悪くない戦略だ。
自動的に充電スポットを経由地にセットしてくれるナビ
アリアのカーナビはGNSS(準天頂衛星)に対応し、プロパイロット2.0の制御精度が『スカイライン』に搭載されたものより向上する。国内では、あまりないが、海外では片側4車線の高速道路も少なくない。GPS測位精度の向上は、走行車線の正確な把握に貢献する。
コンソールのスイッチ類がほとんどなくなるが、アマゾンAlexaに対応するので、インフォテインメント系の操作の一部は、音声制御が可能だ。Alexaに対応したエアコンや照明などを使っていれば、それらを車内から制御することもできる。
Android AutoやCar Playにも対応するが、Nissan Connectの専用アプリも用意されるようだ。詳細機能はまだ不明だが、ナビの設定はアプリ経由で車内、車外からも可能だ。なお、ナビのルート設定は自動的に充電スポットを経由地に入れてくれる機能もある。
自動駐車をしてくれるプロパイロットパーキングもリーフから引きつぐ。駐車機能は同じだが、インテリジェントキーによる操作が可能だ。
国産車でも手に入るOTA体験
OTAによるソフトウェアアップデートも可能になるが、当面はナビの地図更新がメインとなるようだ。機能としては、車両システムのアップデートも可能になっている。法的な問題も含め準備が整えば、日産から機能アップデートのアナウンスがあるかもしれない。テスラのようなOTA体験に近づくだろう。
公式には明言されていないが、ECUはテスラのような統合アーキテクチャではないようだ。しかし、OTAで車両システムのアップデートも可能ということは、個々のコンポーネントが独自にセキュリティ機能を持っており、カーナビやインフォテインメントデバイス、通信モジュールと、車載ネットワークの間にあるゲートウェイを超えられるということを意味する。あるいは、ゲートウェイにOSのような機能を持たせ、車両システムのOTAや保護機能を提供しているものと思われる。
OTAは自動運転やコネクテッド機能のアップデートだけでなく、車検やリコール対応にも利用できる。じつはEVに限らず今後は必須となる機能で車選びのポイントにもなる。セキュリティ機能とあわせて整備されたことは大きい。
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