新しい文字入れ技術の「A.M.T.(特許番号 P6153437)」とは
では、その技術の紹介をしていこう。まずは「RAYS ADVANCED MACHINING TECHNOLOGY(以下A.M.T.)」という技術だ。A.M.T.の解説はレイズエンジニアリングの伊藤氏が担当。伊藤氏によると、アルミホイールにおいてブランドなどを表す場合は、金型を用いて文字や記号などを入れたり、ステッカーやプレートを貼り付けたりしていくことが一般的であるという。
しかし、金型を使った文字入れでは塗装をした際に文字が見えにくくなることがある。それに別の金型を用意する必要があるため、どうしてもホイールの価格が高くなる傾向になりやすいという。ではステッカーはというと、ブレーキディスクから伝わってくる熱で高温になるなど、どうしても剥がれや劣化が起こりやすく、対策としてステッカーの上からクリア塗装をしたこともあったが、それでも納得いく効果は得られなかったという。
そこでレイズが取り入れたのがA.M.T.と呼ぶ技術。これはマシニングセンターという高性能な切削機械を用いてホイール天面に文字などを入れていく加工だが、最大の特徴は「ホイールの塗装を完了したあとで文字を掘る」ということ。こうすることで、アルミの素材感をデザインの一部として使えるようになるので、独特の質感を作ることができるのだ。
また、A.M.T.では切削刃による「刃物目」をあえて残す仕上げにすることで、文字という細かい部分に凹凸の筋を連続させることを実現した。この加工部分は芸術的な彫刻のようでもあるし、日本庭園に見られる枯山水のようでもある。
さて、A.M.T.だがこの技術は前記したようにホイールの塗装を完了したあとに行なうものなので、削りのミスは一切許されないというシビアさがある。それに塗装後にまた削ることは工程(部署)の差し戻しになるので、量産品を作る現場的には非効率である。いいものは作りたい、だけど量産では手間や時間が掛かりすぎないことも重要な点になる。
こうしたジレンマを解消するために、レイズエンジニアリングはA.M.T.を量産ペースで行なえる加工機材を独自で製作したと言う。伊藤氏からこの話を聞いたときは「そんなことが可能なのか?」と思ったが、なんとレイズエンジニアリングには社内に設備設計課という機材を自前で作るための部署まであった。そしてその部署で作られた自社製マシニングセンターにより、難易度の高い彫刻加工を量産品として通用する作業速度と品質で実現したのだ。
また、伊藤氏は「レイズは鍛造から塗装までのすべての作業を自社工場で行なっている強みがあるので、工程を戻すという複雑な状況もこなせる社内体勢も整っている」と解説した。さらに製造現場の従業員について「自分の担当する行程の次に控える人に“いいもの”を渡すという気持ちをみんなが持っている」と紹介し、これを「優れた機材を使うこと以上にA.M.T.を完成させるのに重要なこと」とまとめた。
切削加工で広げる色の表現法「REDOT(特許番号 P6417131)」
続いて紹介されたのが、こちらも特許技術の「REDOT(アール・イー・ドット)」で、これはベースの第1カラーの上にアクセントとなる第2カラーを載せたディスペンサーをNCプログラムに従って送り、速度と塗料吐出量の双方を制御しながら線や点を描くように描画で表現したいデザインを短時間で作り出すことができるものだ。
似たようなことはマスキングして塗装すれば可能だろうが、REDOTであればホイールのサイズ違いごとに「デザインの入れ方を少し変えたい」という変更にも柔軟に対応できるのもメリットだ。
なお、A.M.T.は鍛造した面に刃物を入れる加工であるが、ホイールの強度や耐久性に関して影響はないとのこと。そして現在はA.M.T.とREDOTの2つをあわせて作る新意匠ダブルカラー+彫刻により製法についても申請していて、こちらは特許査定済という段階にあるとのことだった。
以上がA.M.T.およびREDOTの技術の概要だが、レイズといえばホイールの強度解析や設計、それに鍛造用の金型製作技術のようにホイールの性能向上に結びつくことを一生懸命やるメーカーというイメージがあるだけに、あくまでもデザインの一部でしかないA.M.T.やREDOTについてはちょっとした意外さも感じた。そこでこの点について聞いてみたところ納得の回答をいただいた。
前出のとおり、A.M.T.やREDOTは特殊な切削技術を要するので、量産ホイールに採用するために加工機材から自社で作っている。これはものづくりに取り組む真摯な姿勢を表すものであるし、技術力の高さを表現するにも十分すぎるもの。すなわちA.M.T.やREDOTを使って入れるブランド名などの文字や記号は、レイズの技術力の高さを目で見て分かるようにしたものであり、そこから軽さや剛性の高さなどホイールに盛り込まれている別の技術を意識して欲しいというわけなのだ。記事の前半、三根氏が語っていた「軽さや剛性は目で見て分かるものではないから別のかたちで表現する」ということなのだ。
優れた意匠性を実現する「ハイブリッドマシニング(特許番号 P6708905)」
続いて紹介するのが「ハイブリッドマシニング」という特許技術だ。こちらはレイズの加藤氏が解説を担当した。
さて、ハイブリッドマシニングは優れた意匠性を発揮するための機械加工を施した形状(デザイン)こと。つまりA.M.T.やREDOTとは違い、技術によって作り出した形状に掛かる特許となる。
ではその形状を説明しよう。写真のホイールには独自の意匠性を持たせるためにダイヤモンドカットと呼ばれる2次元面への加工と壁面への3次元面加工などが施されているが、こうした加工法の違いがあれど「連続した1つのデザイン」であるように仕上げることがハイブリッドマシニングの特徴である。
この加工を用いることで2次元面と3次元面の境にはシャープなラインが生まれるのだが、実はホイールには製造時に多少の歪みが生じている(品質の基準があり、そこに収まるものだけが製品になる)ので、歪みがあるものでは斜め線の傾きがスポークごとに変わってくることもある。そのためハイブリッドマシニングでは加工時に専用のタッチセンサーなども用いて歪みがあった場合、適切に修正しているという。
最後にもう1つ、加藤氏が強調していたコメントを紹介しておこう。今回紹介されたA.M.T.は2012年から製品に採用され、特許としては2015年に公開されたものだが、なぜ今あらためて取り上げられたのかに関して不思議に思うところもあったが、これは後述するレイズの大規模イベントに関連することであるのがいちばんの理由だった。そしてもう1つの理由として、加藤氏は市場に出回っているコピー品、類似品を作る企業へのメッセージという意味も兼ねていると語った。
レイズは創業以来、独自のアイデアと技術でアルミホイールの製造販売をしてきたメーカーで、市場においては常に高い人気を保っている。そして今回のA.M.T.やREDOT、ハイブリッドマシニングだけでなく、いつの時代も優れたアイデア、技術を生み出していて、それこそがレイズ従業員すべての誇りであるとのことだ。
しかし、人気がある製品においてはどうしてもデザインや技術のコピー品、類似品が出てくるもの。レイズとしては自分たちの仲間が何年も苦労して作りあげたものを大事にしたい気持ちが非常に強く、そこで市場および業界にレイズの所有する技術や知的財産を改めて周知してもらうため今回の説明会を行なったとのこと。そして今後、これらのことを侵害する製品に対しては強い態度で臨むということも語られた。
8月10日に「RAYS WORLD TOUR IN JAPAN」を開催
レイズは例年、海外での販促活動として「RAYS WORLD TOUR」という製品展示会をアジア各国で開催している。2020年も同様に開催の予定だったが、新型コロナウイルスの影響が世界規模におよんでいることから、海外での開催を中止することになった。その代わりとして8月10日に富士スピードウェイを会場とした「RAYS WORLD TOUR IN JAPAN」を開催するという。
このイベントでは新作展示、新製品装着のデモカー展示に加えてレイズ製のアルミホイールを履くSUPER GTマシン(GT500)の展示なども用意される予定だが、新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から公開はマスメディアなどに限られ、販売業者を含む一般の観覧はできなくなっている。
しかし、イベントの模様はYouTubeの「RAYSWHEELS Channel」とFacebookの「Home to Volk Racing」にてライブ配信が行なわれるので、この「RAYS WORLD TOUR IN JAPAN」に興味のある方は、ぜひライブ配信をご覧いただきたい。10時~14時までの開催予定となっていて、配信もその時間内で行なわれるとのことだ。
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July 27, 2020 at 10:00PM
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