モトローラ初の折り畳みスマートフォンとして米国で発売された「Razr(レーザー)」。ふたつ折りタイプの携帯電話のようなデザインで、かつて人気を博した端末の“スマートフォン版”ともいえる製品だ。実際に使ってみると持った感じはなかなかではあるが、価格と性能や品質が釣り合っておらず、ノスタルジーを当てにしすぎではないかとの印象を受けた──。『WIRED』US版の辛口レヴュー。
TEXT BY JULIAN CHOKKATTU
TRANSLATION BY RYO OGATA/GALILEO
モトローラ初の折り畳みスマートフォン「Razr(レーザー)」を使ってみての体験は、いい点と悪い点が混在していると言える。モトローラを代表するブランドのひとつとして、2004年以来の復活を遂げたこの製品は、スマートフォン以前は当たり前だった古典的なふたつ折りの携帯電話を手本にしたデザインだ。
ただし、下半分には物理キーボードがないので、そのぶんタッチスクリーンが広くなっている。みなさんが使っているスマートフォンを半分に折り畳んだものを考えてほしい(考えるだけにして、実際に半分に折らないように)。
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これまで折り畳めるスマートフォンといえば、サムスンの「Galaxy Fold」のような見開きタイプのものしかなかった。スマートフォンを開くと画面がタブレット端末のようなサイズになり、フルサイズのアプリふたつを並べて使えるというものだ。これはマルチタスクに便利と言える。
一方で、縦方向に開閉するクラムシェル型の利点は、もっとシンプルである。つまり、ポケットや小物入れに楽に入れやすいのだ。
価格のわりに耐久性には不安
最初は気に入っていた。どのポケットにも少し余裕が生まれ、この感覚は数日ほど使ううちに当たり前になった。さらに、考えごとをしながら無意識のうちにRazrを開けたり閉めたりするようになった。ちょうどハンドスピナーのような感じだ。
一方で耐久性については、そこまで信頼しているわけではない。毎日のように画面に新しい凹凸が見つかる。まるでディスプレイが自分をはがしてほしがっているかのようだ。さらにヒンジからは、古い門のような柔らかいきしみ音がする。開閉のたびに、プラスティックの画面も音を立てる。
Razrのさらなる不幸は、「Galaxy Z Flip」の登場だ。サムスンが発売したクラムシェル式の折り畳みスマートフォンは、Razrより100万倍はよさそうで、ハードウェアのあらゆる点が改善されているように見える。
例えばサムスンは、ディスプレイにプラスティックではなく、曲げられるガラスを開発した(『WIRED』US版は過去に、折り畳みデヴァイスを買いたいのであれば、このイノヴェイションを待つようにと提案している)。それでいて、どういうわけかサムスン(1,380ドル=約15万円)のほうが、モトローラ(1,500ドル=約16万円)と比べて少し安いのだ。
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こうして、実は自分がRazrを好きではないことに気づいた。本当はクラムシェル式が好きなだけだったのだ。
Razrの問題は、1,500ドルという価格でありながら、従来のスマートフォンなら必須である要素が必要以上に犠牲にされている点にある。素晴らしいカメラも、長いバッテリー駆動時間も、明るい画面もなく、なんとAndroidも最新版ではなかった。ノスタルジーを当てにしすぎだ。基になった折り畳み携帯電話「RAZR V3」が大好きだった人たちを誘惑したかったのだろうが、むしろ嫌悪感を抱いてしまった。
細くて持ちやすいという美点
Razrは、閉じると横が72mmで、縦が94mmしかない。グーグルの「Pixel 4 XL」のような大画面スマートフォンの約半分だ。ちなみに正方形の「ポスト・イット」より、おそらく少しだけ大きい。開くと縦長の画面は対角線が6.2インチ(縦は、6.3インチのPixelよりほんの少し長くなる)。アスペクト比が21:9と、普通のスマートフォンよりかなり細くて持ちやすい。
こんなことを書いているのは、これこそがクラムシェル型のスマートフォンを買いたい理由だと思うからだ。最近のスマートフォンは大きすぎるという不満を抱いたことがある人は、このRazrが解決策になるだろう。母に見せたところ、目を輝かせた。10年以上前のふたつ折りの携帯電話を思い出し、小さいデヴァイスをもう一度持ち歩けるかもしれないと喜んでいた。
閉じると、Razrには重量感がある。そして、あえて言えば高級感がある。個人的にはまったく魅力を感じないが、それはおそらく色が単調なブラックだからだろう(ゴールドのアクセントが入ったモデルもあり、こちらのほうがよさそうだ)。フロントに2.7インチの画面があり、通知の確認や、Androidの設定へのアクセス、セルフィー撮影時の表示、メディア再生のコントロールができる。
持った感じはいいが……
閉じて持った感じは好きだ。だからこそ、モトローラがこの小さなフロント画面で、ほかのアイデアを提案できなかったことが残念でならない。
この画面でテキストメッセージを作成できないのはそれでいい(どうせ使いづらいだろう)。Twitterなどの閲覧も望まない。ただ、例えばGoogle マップの経路をある程度見ることができて、歩きながら使う際に開く必要がないようにできたら素晴らしいと思う。
あるいは、この画面からGoogle アシスタントが利用できたら、Razrを取り出してトランシーヴァーを使うように、質問や指示ができたはずだ。閉じた状態で持ちやすいので、こうした細かなところが仕上がっていれば、クラムシェル型ならでは体験はもっと豊かになっていたことだろう。
開いた状態は、魅力的な光景とは言い難い。ヒンジはむき出しで、上部にノッチ(出っ張り)があって魅力的とは言えず、下部の厚いあごもあまり好きになれない(この部分に指紋センサーがある)。
画面自体も十分なものとは言いづらい。自転車のホルダーに装着したところ、固定については大きな問題がなかったが、日差しが強すぎるわけでもないのに、サイクリングのときにGoogle アシスタントの表示がほとんど見えなかった。
普段使いの際にプラスティック製スクリーンの指の滑りがよくないのは言うまでもない。さまざまな凹凸があり、特にヒンジ機構の上はいまいちだった。
耐久性の懸念がどうなったのか気になる人がいるかもしれない。モトローラの広報担当者によると、開閉時の音は「このスマートフォンの機械的な動きだと、どうしてもこうなる」という。だが、Galaxy Foldはこんな音はしなかった。画面に感じる凹凸について話すと、広報担当者は「ディスプレイの柔軟性によるもの」だとしたうえで、「そうしたプレートの存在を感じることがあるのは正常なこと」と説明していた。
そうだろうと思う。(いまのところ)このスマートフォンに問題が発生していないことは言っておく必要がある。だが、どの回答もRazrの利用を快適にするものではなかった。
フラッグシップらしさに欠ける
仮に折り畳み機構がなければ、Razrの価格はせいぜい500ドル(約54,000円)くらいだろう。プロセッサーは旧式の「Snapdragon 710」だし、RAMは6GB、ストレージ容量は128GBだ。パフォーマンスは素晴らしいが、価格を考えると当然あるべき「フラグシップらしさ」がない。IP68の防水性能やワイヤレス充電といったプレミアムな機能も欠けている。
16メガピクセルのメインカメラは、それなりの光があればそれなりの写真が撮れるし、セルフィー撮影に使える点もいい。しかし、光量が少ない場面が得意ではないので、夜は多くを期待できず、ナイトモードも役に立たない。400ドル(約44,000円)の「Pixel 3a」のカメラのほうがはるかにいい。
また、バッテリーはあまり当てにならない。2,510mAhのセルは思ったほど貧弱ではなかったが、平日に正味4時間ほどの利用で、だいたい午後8時に15パーセントになる。夜に街に繰り出すなら、バッテリーが切れてしまう。
それにスピーカーの音質がよくない。「Android 10」へのアップグレードのスケジュールについて、このときモトローラの担当者は答えられなかった。これでなぜこの価格なのか、わたしにはわからない。
わかったことがある。折り畳みできるスマートフォンは、近いうちに劇的に値段が下がるだろう(Galaxy FoldとGalaxy Z Flipを比べてみてほしい)。そしてRazrはモトローラにとって、ほんの始まりにすぎない。
だがモトローラは、技術がもう少し成熟するまで待つべきだったのかもしれない。すでにもっと小さなスマートフォンがあることについてはともかく、スマートフォンそのものがもっと優れた製品であるべきだ。
最後に、言い忘れていたことがある。Razrは米国の通信キャリアであるベライゾンでしか使えないのだ。
◎「WIRED」な点
折り畳むことができる! ポケットのスペースに余裕ができる。閉じた状態で持った感じがいい。旧ヴァージョンの「Android 9」ではあるが、モトローラはほとんど手を加えていない。
△「TIRED」な点
通信キャリアが米国のベライゾンでしか使えない。価格が高すぎる。ヒンジから音がするし、画面に凹凸がある。スペックが価格に釣り合っておらず、カメラも必要な品質レヴェルに遠く及ばない。屋外だと画面が見づらく、バッテリー駆動時間は必要最小限。フロント画面はもう少し活用できたはず。
※『WIRED』によるガジェットのレヴュー記事はこちら。
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May 23, 2020 at 07:00AM
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